いちばん、すきなひと。
出会いはどこにでもあるみたいだけど。
花火をしながら、ふいにタケルくんが隣りに座った。
「ここに来るのは初めてなの?」
「うん、初めて来た。いいところだね」
「でしょー、俺もそう思う」
はは、と軽く二人で笑う。

「麻衣の住んでる所ってさ、どんなとこ?」
「うーん、そーだねー……工場が多くて、あんまり空気がいいとは言えないんだけどさ。高校から帰る時に通る並木道がすっごい綺麗なんだ」

お気に入りの、場所。
高校三年間しか、通うことのないであろう並木道。


「……春は桜がたくさん咲いて、ピンク色の道になるんだ。夏は青々とした葉が茂って、秋は綺麗な紅葉の絨毯ができるの。」

「冬は?」
「……雪が降ったら白銀の道なんだけどねー、最近は積もるほど降らないからただの寂しい道になっちゃう」
「そうなんだ、この辺は雪も積もるよ。」
「それだけ寒いんだろうねぇ。いいなぁ、夏は星も綺麗だし海も遊べるし。冬は雪が見れるなんてさ。」
「冬の空もいいよ。澄んでて星が綺麗に見える」
「あーなんかロマンチックな空になりそうだもんね。」
ふふ、と笑って
線香花火で余韻を楽しむ。

「……俺らさ、今度オープンキャンパスとかでそっちの大学も見に行く予定なんだ。」
「そうなんだー」
「だからさ、もしそっち行ったらまた遊ぼうよ」
「そだねーじゃそん時は近藤さん経由で皆を集めよう」

私がそういうと彼はキョトンとして
「そこでユキの名前が出るあたり面白いね。麻衣が皆集めてくれたらいいじゃん」
私を指差してそう言った。

「えーなんでー。近藤さんのほうが早いよ」
「そうなんだ。麻衣って実は結構面倒臭がり?」
最後は少しからかうような口調で、タケルくんは言ってきた。

図星、です。
これ以上あれこれ頭を使いたくないのが正直なところ、ですが。

「あは、当たりー。誰かと連絡取って企画とか私にはできないよ。いいお店とかも知らないしね」
「じゃさ、俺が麻衣に連絡するから、後はユキに任せたらいいんじゃない?」
何故そうなる。
それはそれで面倒じゃないか。

「え、ユキちゃんに頼むならタケルくんが直で連絡すりゃいいじゃん。それかタクミくんに頼むとか。」
「あー、そうかー。じゃ麻衣がお店とか探してよ」
「だーかーらっ、私そんなお店とか滅多に行かないから知らないのっ」
「なんだー残念っ」
「ごめんなさいねー田舎モンみたいな返事で」
「いやそっちのほうが都会っしょ」
「そう?大して変わんないよー」
「じゃ案内してよ」
また最初に戻る、ってか。

私がそう思って彼を見た瞬間、彼も同じ事を思ったらしく
二人で思わず吹き出してしまった。

アルコールのせいだろうか。
楽しさ倍増気分。

「あっ、ほら!もー喋りすぎて線香花火が」
まったく堪能する間もなく落ちた。
あの話をしている時間を考えると結構長かったと思うのだが。

「もう一回やろうぜ」
タケルくんはさらに追加でもってきた。
二人でどちらが長くもつか競争する。

「じゃあさ、俺が買ったら麻衣の電話番号教えて」
タケルくんは笑顔でさらりとそんな事を爽やかに言う。
番号くらい、いつでもどうぞ。
とは言わない。

簡単に教えてしまうと、きっと
あっちゃんのように、気軽な電話友達になってしまう。
それを少し求めている自分もいるけど

それが果たして
良い事に繋がるのかどうか。
そう考えると

今は、少し遠慮願いたい。

歯車の狂いっぱなしな私は
適度な距離を掴み損ねそうだ。


「えーなんで。そんな価値あるモンじゃないでしょ番号なんて」
「だから気楽でいいじゃん」
「そっか。でもそんな簡単に番号教えるのもなんか嫌だなー」
「じゃ勝てばいいじゃん。」
そうか、と納得して。

イザ、勝負。

絶対負けない。
番号なんて教えてやらない。

そんな執念が実ったのか
「……あっ、ダメだー!俺のもう消えるっ」
そう言った直後に、彼の線香花火は落ちる事なく静かに煙と化した。

「やったぁー!ほらほら、私のまだパチパチしてるー」
「はしゃぎすぎだろソレ。なんか癪に障るなぁもう!」
二人でああだこうだと言っている側で
タクミくんの声が聞こえた。

「おーい、最後の打ち上げやるぞー見とけよー」
そうして、皆で海岸を見る。
彼は上手に大きな筒を砂浜に立て、点火した。
スッと身を引いて離れる。

数秒後。
自分たちより高く、高く。
火花が打ち上がり
空の星に混ざって、弾けた。
いくつも、いくつも。

私達はただ黙って
その星空を眺めた。




「はー、たのしかったねー」
皆で後片付けをしながら、余韻に浸る。
「タクミ、色々ありがとうね」
近藤さんが先に礼を言った。
私たちも合わせて後から言う。
「ホント、夏の海満喫したよ。」
「ありがとう」

彼らは月明かり下、少しはにかんで
「俺らも面白かった。また皆でやろうな」
と、言ってくれた。


夏の夜は長くて、とても開放的。
いつまでも遊んでいたいけど
一応、自分達の身をわきまえる。

「じゃ、叔母さん心配したらマズイから」
「そだな、俺らもバレる前に帰らないと」
「……叔母さんの事だから、これくらい予想してそうだけどねー」
「……やっぱり?」
二人の会話に、皆で笑う。
それでも彼の母は、笑って許してくれそうな気がするのだ。


こんな経験、なかなかできない。
来てよかった。
本当にそう思った。


「明日、帰るの?」
「そう、お昼過ぎには出発かなぁ」
皆の都合で一泊二日の小旅行なのだ。
それでも私達には十分過ぎる内容。

「そっか、んじゃまたな」
「うん、ありがとー!またね」


彼らと別れを告げ、部屋に戻る。
少し遅めの温泉に入り、一日の疲れを癒した。

部屋に戻ると布団が敷かれている。
まだまだ夜はこれから。
旅行の醍醐味は寧ろこれだろう。

皆で布団に潜りながら、枕を囲んで話す。

「今日ホント楽しかったー!近藤さんありがとー」
「ところでさ、近藤さんてユキって呼ばれてるんじゃん。私達もユキってよばせてよ」
「別にいいよ。私そんなに呼び名にこだわりないからさ」
近藤さんはこれから、ユキと呼ばれる事になる。

彼女の本当の姿はこうなのだろう。
学校とは印象が違う。
それについても彼女は説明してくれた。

昔はここにもよく遊びに来ていたこと。
あまりにも男の子とつるんで危ない遊びばかりする娘を心配して、両親は私立の有名お嬢様学校へ行かせたということ。
そこでーー面白くもない女子の付き合いを通して色々学んだ結果、やっぱり共学で伸び伸びしたいと決意し、今に至る。


そして。
何よりも一番驚いたのは。
彼女の告白。

「それとね、私ーータクミの事が好きんなっちゃって。それから離れる意味もあったかな」

衝撃。
私たちは何も言えずポカンとしてしまった。

今、何て。

「小六あたりで妙に仲良くなりすぎちゃってさ。……ちょっとした興味本位でキスしてるとこを叔母さんに見つかって。」
近藤さんーーユキは淡々と話す。

「まぁ子供のした事だからって大目には見てもらえたんだと思うけど、こっ酷く怒られて二人きりで会うの禁止になっちゃった。」
「……う、ん。そりゃ…そうだよね……

話が濃過ぎて反応ができない。

「ま、そんな事になる前から両親は私の中学受験を予定してたし、三年間は私も箱入りにされちゃったし。叔母さんはウチの両親には黙っててくれたみたいだけど。」
ユキはそう言って枕に額を押し付けて寝そべった。

「ーー今回、友達となら来ていいって言ったのね。多分もうお互い落ち着いたからいいだろうって思ったんだと思うんだけど。」
「……で、久しぶりの再会はどう、だったの……?」
聞いてはいけないような気もしたけど、
気になったので聞いてみる。

彼女は枕からガバッと顔を上げ、
眉間にシワを寄せた。
「あれは、反則だよね」

え?

「だってさー昔より男になってるんだもん。余計意識しちゃったよー」
「…………」
それって。

「はー3年も開いたら大丈夫かと思ったけど。まだまだ修行が必要だわ」
「わぁ、凄いねそれ」
私は思わず驚いてしまった。

三年間も会ってないのに、久しぶりの再会でまた、ときめく事ができるなんて。

私は、距離が開いたら駄目だと思っていた。
そうじゃない事もあるんだろうか。

「高校で好きな人を新しく作れば大丈夫だと思ってるんだけどねー。中々うまくいかないモンだわ」
「……でも従兄弟ってさ、結婚はできるんだよね?」
美羽が興味深気に聞いてきた。
「……アンタ人が触れないでおこうと思ってる話題によくもまぁ」
ユキは思いっきり呆れた顔をした。

「でも、そうでしょ?」
「……そうだけどさ!フツーに考えてヤバイっしょ。」

「そうなのかなぁ。」
美羽は首を傾げている。
「美羽は、年の近い従兄弟とかいないの?」
「うん、年下の可愛い子ばっかり。弟みたい。」
「そうか……じゃきっと数年先には分かるよ」

分かるような分からないような嘆きを残して。
ユキは話題を変えた。
「まぁ、私は特殊だとは思うけど。せっかくだからこの際暴露大会だよ!皆喋った喋ったー」

そんな彼女の話に見合うような
ディープな話題、持ってない。
少し、笑ってしまった。

だけど、やっぱり時間帯もあるのか。
加奈が
「じゃあたしも恋愛相談しよー」
なんて話し始めるではないか。
すると美羽まで。

皆、それぞれに悩みを持っているんだ。
そのことに少し、安心した。

そして自分も。
少し、話してもいいかなと思った。
一人で抱えるよりも楽になる事を知った。

夜が長くて、よかった。
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