いちばん、すきなひと。
青春まっただ中とはこういうものか。
バスに揺られる事数十分。
ようやく、目的地へ到着した。
荷物を置くとすぐに集合してスキーの準備をする。
慌ただしく、修学旅行ならぬスキー合宿の幕が開けた。
「あー滑った滑った!」
「もう充分だよね」
コーチに指導してもらい、予定時刻までは言われたとおりに必死に滑った。
中学の修学旅行でもスキーを体験してるのでさほど困る事はない。
久しぶりの雪山は、正直楽しかった。
家族で来る事なんてないので、スキーはこれで2度目だ。
けれども、それなりに滑れるので抵抗もなく。私たちはほとんど自由に滑っていた。
ユキはーーどうやら初めてのようだった。
「明日もあるなんてユウウツ。私には向いてないー!」
ブーツを脱いで雪を払いながら、ロビーで彼女は叫んだ。
「まぁ初日ならそんなモンだよ。明日はもっと滑れるって」
加奈が慰めるも、ユキの耳には届いていないようだ。
「だって!私だけじゃんこんなにお尻痛くなるまで素っ転んでるの!」
春スキーといえども、やはりこちらの雪は柔らかく。
普通に転ぶ分には痛くないハズなのだが。
「うーん、転び方も馴れてないから仕方ないよ。これでもまだマシなほうだってば」
「そうだよ、この時期にこんなフワフワの雪は北海道ならではだよねー」
私の話に美羽も便乗して頷く。
「えーこれでマシだったら他の地方じゃどうなるんだろ……」
ユキはあーヤダヤダと身震いして、サッサと着替え始めた。
「ユキ、もう滑らないの?」
「私はもうギブアップ」
一応、班行動が基本なのだが。
ユキはもう滑る気はないらしい。
「私はこの後の自由時間もナイターやりたいな」
加奈が意見を述べる。美羽も頷く。
「麻衣はどうするの?」
うーん、参った。
正直、どっちでもいいけど。
ユキを一人にするのも気が引けるし
自分が病み上がりだという事も考慮する。
「……私も病み上がりだし今日は部屋に戻るよ。二人ずつの行動なら何かあっても大丈夫だよね?」
私の言葉に加奈は頷いて。
「そだね、そうしよっか。まだ明日もあるしね。」
とりあえず滑り終えたら部屋に戻ると約束して。
彼女たちは再度ゲレンデへ出て行った。
夕食までの時間、私達は自由時間を各自で過ごす。
ほとんどが外に滑りに行っているようだ。
「……まぁこんなゲレンデ前の何もないホテルじゃ、行動も限られてるよねー」
まさに合宿、とユキが眉をしかめてボヤいた。
「うーん、そだねーあ、売店あるよ。何か買う?」
荷物を置いてからホテル内を探索しようと、私達は一度部屋へ戻った。
売店へ向かう途中、とある部屋のドアが解放されている。
ウチのクラスの子がいる部屋だ。
「どこの班だろ?誰かいるのかな?」
廊下からチラリと覗く。あくまでさりげなく、だ。
楽しそうな声が聞こえてきた、と思った瞬間。
「あーっみやのっちじゃん!」
名前を呼ばれて思わず奥を見る。
加代が手を振っている。
「あれー?加代の班なんだ。外で滑らないの?」
「えーもうウンザリ。部屋で遊んでるほうが楽しいじゃん」
今トランプやってんの、と加代が手招きをしている。
「みやのっちも一緒にやろうよー」
どうする?と、思わず振り返ってユキを見る。
コクコクと頭を上下に降る彼女を見て、理解する。
二人で部屋に入る事にした。
「……っとこれはこれは。」
加代の班の子だけかと思いきや。
男子がいるではないか。
松田はどうやらいないようだ。きっとスキーだな、と頭の隅で思う。
バスケバカはきっとスキーもバカみたいに楽しむに違いない。
ここに居た男子も、ウチのクラスメイトたちだ。
4人。名前がウロ覚えな人が一人いるが申し訳ない。
「おーみやのっちじゃん。ま、座れよ」
「アンタらの部屋じゃないでしょここは」
「まーカタイ事言うなって。皆スキー行ってヒマだからよ、何かやろーって事で」
ホテル内をブラブラしてたら加代に会ったというワケだ。
先生が何を心配しているのか、男女別の部屋割りだから
お互いの部屋への行き来は基本的に禁止だと言う。
ただし、ドアを解放して外から見える状態ならいいだろうと譲歩したらしい。
どういう交渉をしたのかこの人たちは。
「……ふーん、それでコレね。」
私は解放されっぱなしのドアを顎でしゃくって納得した。
「そ。さー三回戦やるわよ。」
「何やってんの」
「ババ抜き」
ベタな遊びだな……とポカンとしてたら
「みやのっちと近藤さんのも配るからね。それと負けたら罰ゲーム」
罰ゲーム?
「何それ」
「負けたら、好きな人に告白するの」
「はい?」
私は目が点になった。
「えー私好きな人いないけど」
ユキがつまらなさそうに言う。
「またまた〜シラケるじゃんソレ。じゃぁさ、この中で付き合うなら誰がいいか言うってのは?」
「それこそシラケるよ。くだらない」
「じゃぁ、秘密を暴露にしよう。それなら皆何かしらあるでしょ」
「あぁいいねソレ。告白もアリだし」
加代の提案に何故かユキが乗り気になった。
カミングアウト、か。
私にはできるだろうか。
皆に隠してる事なんてザラにある。
しかもこんなどうでもいいメンバーにどうして打ち明けなきゃならないんだ。
かといって、断る勇気もなく。
「さぁ、始めるわよっ」
こうなったら絶対に勝つ。
私は心を決めて、カードを手に持った。
***
「っしゃー!!イチ抜けっ」
「えーみやのっち早い」
これで何とか安全地帯に入れたようだ。
後は高見の見物といこうじゃないか。
「……うわっマジかよ……」
参加男子の一人、真鍋が最後にジョーカーを持ったまま立ち尽くす。
「ひゃっほーい、っしゃ真鍋。何言うよ?」
周りの男子もホクホクした顔で真鍋の肩を抱く。
「えー……」
真鍋は頭をガシガシとかいて考え込んでいる。
この時ほど面白い物はない。
なんせ自分には何も被害がないのだから。
「さ、もうアレだ。好きな人でも言ってしまえ!俺たちが協力するからよ!」
「マジかよ……それ勘弁してくれよな……」
「えー!真鍋くん好きな人いるんだ。誰、ダレ?」
皆で彼に注目する。
「ちょ、マジで嫌だってソレは!何か他の事話してもいいだろ。」
真鍋は両手を大きく左右に振って必死で抵抗する。
「えー駄目だよー好きな人いるんだったらソレでいいじゃん」
「そーそー、知ってる人なら協力できるかもよ?」
女子もハンパなく詰め寄る。
私とユキは傍観者と化していた。
可哀想に。ただそれだけ。
一歩間違えるとそこに自分が居たかもしれない事にゾッとする。
でも、人の恋バナも楽しい。
そして相手が男子なだけに、どんな子がいいのだろうと興味が沸く。
もしかして、加代の班にいるんじゃないのかな。
だからこうやって自由時間にーーー
「分かった!分かったから!……じゃ言うよ……」
真鍋の顔が真っ赤になっている。
面白い。
「ってあれー?みやのっちじゃん。何でこんなトコいるんだよ」
ふいに、ドアから声がした。
身体を反らして振り返る。
松田だ。
「あー松田じゃん。今ちょっとイイトコだから」
「何なに?イイトコって何だよ」
「だーかーら、ちょっとアンタ向こう行っときなって」
「えーここ加代の班だよな?俺も混ぜてー」
「あ、松田ぁー!勝手に入って来ないでよー!」
私の後ろで加代が仁王立ちしてシッシッと手を払っている。
「んだよ俺も入ってもいいだろうが」
「今イイところだから後でね。先に荷物置いておいでよー」
松田はスキーの帰りだったのだ。
確かに荷物が多すぎる。
「……分かったよ。その代わり絶対後で教えろよな!」
ちょっと拗ねた顔で、彼は廊下へ戻っていった。
再び、真鍋に皆の視線が集まる。
他人事なのに、彼の緊張が伝わってドキドキする。
きっと、この中にいるんじゃないだろうか。
「……加代だよ」
皆で加代を見る。
加代はまさか自分だとは思ってなかったようで。
「……え?」
と、呟いた。
ようやく、目的地へ到着した。
荷物を置くとすぐに集合してスキーの準備をする。
慌ただしく、修学旅行ならぬスキー合宿の幕が開けた。
「あー滑った滑った!」
「もう充分だよね」
コーチに指導してもらい、予定時刻までは言われたとおりに必死に滑った。
中学の修学旅行でもスキーを体験してるのでさほど困る事はない。
久しぶりの雪山は、正直楽しかった。
家族で来る事なんてないので、スキーはこれで2度目だ。
けれども、それなりに滑れるので抵抗もなく。私たちはほとんど自由に滑っていた。
ユキはーーどうやら初めてのようだった。
「明日もあるなんてユウウツ。私には向いてないー!」
ブーツを脱いで雪を払いながら、ロビーで彼女は叫んだ。
「まぁ初日ならそんなモンだよ。明日はもっと滑れるって」
加奈が慰めるも、ユキの耳には届いていないようだ。
「だって!私だけじゃんこんなにお尻痛くなるまで素っ転んでるの!」
春スキーといえども、やはりこちらの雪は柔らかく。
普通に転ぶ分には痛くないハズなのだが。
「うーん、転び方も馴れてないから仕方ないよ。これでもまだマシなほうだってば」
「そうだよ、この時期にこんなフワフワの雪は北海道ならではだよねー」
私の話に美羽も便乗して頷く。
「えーこれでマシだったら他の地方じゃどうなるんだろ……」
ユキはあーヤダヤダと身震いして、サッサと着替え始めた。
「ユキ、もう滑らないの?」
「私はもうギブアップ」
一応、班行動が基本なのだが。
ユキはもう滑る気はないらしい。
「私はこの後の自由時間もナイターやりたいな」
加奈が意見を述べる。美羽も頷く。
「麻衣はどうするの?」
うーん、参った。
正直、どっちでもいいけど。
ユキを一人にするのも気が引けるし
自分が病み上がりだという事も考慮する。
「……私も病み上がりだし今日は部屋に戻るよ。二人ずつの行動なら何かあっても大丈夫だよね?」
私の言葉に加奈は頷いて。
「そだね、そうしよっか。まだ明日もあるしね。」
とりあえず滑り終えたら部屋に戻ると約束して。
彼女たちは再度ゲレンデへ出て行った。
夕食までの時間、私達は自由時間を各自で過ごす。
ほとんどが外に滑りに行っているようだ。
「……まぁこんなゲレンデ前の何もないホテルじゃ、行動も限られてるよねー」
まさに合宿、とユキが眉をしかめてボヤいた。
「うーん、そだねーあ、売店あるよ。何か買う?」
荷物を置いてからホテル内を探索しようと、私達は一度部屋へ戻った。
売店へ向かう途中、とある部屋のドアが解放されている。
ウチのクラスの子がいる部屋だ。
「どこの班だろ?誰かいるのかな?」
廊下からチラリと覗く。あくまでさりげなく、だ。
楽しそうな声が聞こえてきた、と思った瞬間。
「あーっみやのっちじゃん!」
名前を呼ばれて思わず奥を見る。
加代が手を振っている。
「あれー?加代の班なんだ。外で滑らないの?」
「えーもうウンザリ。部屋で遊んでるほうが楽しいじゃん」
今トランプやってんの、と加代が手招きをしている。
「みやのっちも一緒にやろうよー」
どうする?と、思わず振り返ってユキを見る。
コクコクと頭を上下に降る彼女を見て、理解する。
二人で部屋に入る事にした。
「……っとこれはこれは。」
加代の班の子だけかと思いきや。
男子がいるではないか。
松田はどうやらいないようだ。きっとスキーだな、と頭の隅で思う。
バスケバカはきっとスキーもバカみたいに楽しむに違いない。
ここに居た男子も、ウチのクラスメイトたちだ。
4人。名前がウロ覚えな人が一人いるが申し訳ない。
「おーみやのっちじゃん。ま、座れよ」
「アンタらの部屋じゃないでしょここは」
「まーカタイ事言うなって。皆スキー行ってヒマだからよ、何かやろーって事で」
ホテル内をブラブラしてたら加代に会ったというワケだ。
先生が何を心配しているのか、男女別の部屋割りだから
お互いの部屋への行き来は基本的に禁止だと言う。
ただし、ドアを解放して外から見える状態ならいいだろうと譲歩したらしい。
どういう交渉をしたのかこの人たちは。
「……ふーん、それでコレね。」
私は解放されっぱなしのドアを顎でしゃくって納得した。
「そ。さー三回戦やるわよ。」
「何やってんの」
「ババ抜き」
ベタな遊びだな……とポカンとしてたら
「みやのっちと近藤さんのも配るからね。それと負けたら罰ゲーム」
罰ゲーム?
「何それ」
「負けたら、好きな人に告白するの」
「はい?」
私は目が点になった。
「えー私好きな人いないけど」
ユキがつまらなさそうに言う。
「またまた〜シラケるじゃんソレ。じゃぁさ、この中で付き合うなら誰がいいか言うってのは?」
「それこそシラケるよ。くだらない」
「じゃぁ、秘密を暴露にしよう。それなら皆何かしらあるでしょ」
「あぁいいねソレ。告白もアリだし」
加代の提案に何故かユキが乗り気になった。
カミングアウト、か。
私にはできるだろうか。
皆に隠してる事なんてザラにある。
しかもこんなどうでもいいメンバーにどうして打ち明けなきゃならないんだ。
かといって、断る勇気もなく。
「さぁ、始めるわよっ」
こうなったら絶対に勝つ。
私は心を決めて、カードを手に持った。
***
「っしゃー!!イチ抜けっ」
「えーみやのっち早い」
これで何とか安全地帯に入れたようだ。
後は高見の見物といこうじゃないか。
「……うわっマジかよ……」
参加男子の一人、真鍋が最後にジョーカーを持ったまま立ち尽くす。
「ひゃっほーい、っしゃ真鍋。何言うよ?」
周りの男子もホクホクした顔で真鍋の肩を抱く。
「えー……」
真鍋は頭をガシガシとかいて考え込んでいる。
この時ほど面白い物はない。
なんせ自分には何も被害がないのだから。
「さ、もうアレだ。好きな人でも言ってしまえ!俺たちが協力するからよ!」
「マジかよ……それ勘弁してくれよな……」
「えー!真鍋くん好きな人いるんだ。誰、ダレ?」
皆で彼に注目する。
「ちょ、マジで嫌だってソレは!何か他の事話してもいいだろ。」
真鍋は両手を大きく左右に振って必死で抵抗する。
「えー駄目だよー好きな人いるんだったらソレでいいじゃん」
「そーそー、知ってる人なら協力できるかもよ?」
女子もハンパなく詰め寄る。
私とユキは傍観者と化していた。
可哀想に。ただそれだけ。
一歩間違えるとそこに自分が居たかもしれない事にゾッとする。
でも、人の恋バナも楽しい。
そして相手が男子なだけに、どんな子がいいのだろうと興味が沸く。
もしかして、加代の班にいるんじゃないのかな。
だからこうやって自由時間にーーー
「分かった!分かったから!……じゃ言うよ……」
真鍋の顔が真っ赤になっている。
面白い。
「ってあれー?みやのっちじゃん。何でこんなトコいるんだよ」
ふいに、ドアから声がした。
身体を反らして振り返る。
松田だ。
「あー松田じゃん。今ちょっとイイトコだから」
「何なに?イイトコって何だよ」
「だーかーら、ちょっとアンタ向こう行っときなって」
「えーここ加代の班だよな?俺も混ぜてー」
「あ、松田ぁー!勝手に入って来ないでよー!」
私の後ろで加代が仁王立ちしてシッシッと手を払っている。
「んだよ俺も入ってもいいだろうが」
「今イイところだから後でね。先に荷物置いておいでよー」
松田はスキーの帰りだったのだ。
確かに荷物が多すぎる。
「……分かったよ。その代わり絶対後で教えろよな!」
ちょっと拗ねた顔で、彼は廊下へ戻っていった。
再び、真鍋に皆の視線が集まる。
他人事なのに、彼の緊張が伝わってドキドキする。
きっと、この中にいるんじゃないだろうか。
「……加代だよ」
皆で加代を見る。
加代はまさか自分だとは思ってなかったようで。
「……え?」
と、呟いた。