いちばん、すきなひと。
だからと言って、俺に何か出来るわけもなく。
やっぱり、いつもどおり
二人の間に割って入り、テキトーなくだらない会話を楽しむだけだった。

ただ、なんとなく。
みやのっちがいつもより自然体で野々村と接しているような気がして
そこが不自然に感じられて、少しだけーーー気になった。

何か、あったんだろうか。


俺はなんとも言えない違和感を、気のせいだということにして
教室へ向かった。


昼休み。
隣のクラスのやつに話があって廊下へ出たが
ちょうど、野々村と鉢合わせた。
「おー松田。みやのっち、教室いる?」
俺は一瞬、教室の様子を思い出して
まだ弁当を食べていたはず、と答えようとしたが

「……なに、ワークでも借りんのか?」
俺の質問にアイツは意気揚々と答える。
「そーそー、いつもの事っしょ」

コイツ、いつまで同じ事を繰り返すつもりだろうか
野々村は自分でそれくらい出来るのを誰もが知っている。
あえて彼女に借りに行くのは、何故なんだ

「あのさ野々村、いい加減それ…やめたら?」
ずっと思ってたことを、口にしてしまった。
「え、なんで?」
彼は全く悪気がなさそうだ
その態度にすらイラつきを覚えたが、グッと堪える

「だってオマエ、自分でできるじゃん。何で敢えてみやのっちに借りに行くわけ?」
抑えて、そう聞いた。
だがアイツは
「え、効率いいだろ。アイツ出来るからやりやすいじゃん。」
俺の期待している答えとは全く遠いところに着地する。

「なんかそれ…違うんじゃね?」
「なんだよ、お前べつに関係ねえだろ。」
「そりゃ、そうだけどさ」

やはり、本心は見えない。
そのことがさらに俺をイライラさせる。

「何、お前やきもち?ふふ、お前も毎日ワーク借りてたくせにさ〜」
野々村が冗談めいて話してくるのが、今はなんとも気に入らない。
俺は小さく息を吐いて、落ち着けと言い聞かせる。

「いや、そうなんだけど。こんな時期にまでやることじゃねえだろ」
「は、何言ってんの?べつにお互い進路決まってるしさ、なおさら気楽にやりゃあいいじゃねえか」
「……なあ野々村、ひとつ聞いていいか?」
「ん?」

俺は、もう一度。
アイツに尋ねた
「みやのっちのこと、何とも思ってねえの?」

少しの間があって

「……お前には言わねえよ」

ボソッと低い声で、アイツは言った。
「なんだよソレ、どういう意味…」
「ったくうるせーなあ!お前何なんだよ、それでアイツの肩持ってるつもりか?」
「…な」
「俺がどうしようと、お前にゃ関係ねーよ」

そう言い捨てて、彼女がいる教室へ向かおうとした。
俺の中でプチン、と何かが切れる音がした。

「てめぇ……!適当な事言ってんじゃねーぞゴルァ!」
首根っこをひっつかみ、振り向きざまに拳を突き出した。
予想外の出来事に、野々村はバランスを崩し廊下に転がる。

周りが驚き、どよめく
「何が関係ねーだ!!いつまで周り振り回しゃ気が済むんだよ!!!」
俺も、みやのっちも
いつもお前に振り回されっぱなしだ。

肝心の、野々村の本心が見えないからだ
アイツは、俺らを信用してないのか

じゃあ、アイツはいつも誰にーーー
そこまでして、ハッとした
もしかして、あの彼女は

そう思った瞬間
「……っざけんなよ!」
立ち上がった野々村の右手が、俺の顔を捉えた。
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