いちばん、すきなひと。
成人式
まだ年始のめでたさと休み気分を引きずったまま、
寒さだけが現実を教えてくれる季節

あの日から、もう2年近く経つ。
私は朝早くから、親友のユキと美容室へ駆け込み、
流れに任せ、されるがままに振袖を着つけられる。

そう、今日は成人式だ。
大人への仲間入り。
単なる通過儀礼にすぎない、と他人事のように思っていたが
ユキに振袖のカタログを見せられ、あまりの素敵さに飛びついた。

今も昔も、単純なところは変わらない。
もう、変えるつもりもない。

二人で並んで、話しながらお互いを褒めあう
普段なら気色悪いと思うのだけど
今日は特別。

「やっぱ似合うよねーその色。みやのっちは淡い色が似合うと思ったよ」
「ユキの振袖はハッキリした色でカッコイイじゃん。」
「私は顔が派手だからさー、負けないくらい着物もハデにしないとね!」
あはは、と二人で笑いあう。

卒業してからも、ユキとはよく連絡を取り合ってた。
タクミくんとは相変わらずな距離らしいけど、それはそれで満足だと言っていた。
そのうち、時が解決してくれる事もあるってーーーどこかで聞いたような。

他の人たちの近況は、全く知らない。
あんなにメッセージをやりとりしていた皆とも
何かのきっかけで連絡が途絶えたりしている。
端末を交換したらアドレスが変わっただの、アプリが消えただの
よくある話だ。


私は、あれから専門学校で楽しく毎日を過ごしている。
やはり志を同じくする仲間とは、価値観も似ていて
すぐに打ち解けられるし、腹を割って話せる事もたくさんある。

恋愛も、それなりに
いろんな人と出会い、恋をしてきた。
アイツとの事は思い出になったから、以前より
前向きにはなれたと思う。

だけど、そんなにホイホイうまくいくワケもなく。
次こそ、将来を共にできるような相手と巡り会いたい
なんて焼き鳥片手に叫ぶ始末。

それでも、やっぱり一番まっさらな気持ちだったあの頃は
何物にも代えがたい記憶で。
そんな甘い恋も、またしてみたいなと思いながら
今に至る。


「今日、みんな来るかなあ」
「うーん、きっと来ると思うよ。」
成人式なんて、同窓会みたいなモンだ。
さほど広くない私たちの街は、集まればすぐに知り合いに会えるはず。

ちなみに、着付けをしている最中にも
すでに何人か会っている。
「あ!みやのっちじゃん〜」
「久しぶり〜」
「また後でね!」

こんな会話の繰り返しだ。
でも、それが楽しい。
二人で会場へと歩を進める。
移動が楽なように、会場から最寄りの美容室で全てを頼んだのだ。

懐かしいホールの入り口に、今日は白い看板が立てかけてある。
『成人式』

ほんの数年前、音楽コンクールを開催した
あの場所だ。
何も、変わっていない。
ふとした景色にすら、懐かしさを覚えていると
前方から声がする。

「おー!みやのっちー」
あの声は
私は目を凝らして、人混みの中を探した。

「わあ」
変わらない彼の笑顔に頬が緩む。
「よお、久しぶり」

袴姿の、野々村だった。
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