いちばん、すきなひと。
アイツはいつも、そんなヤツ。
あれから。
サオリとコーヒーを飲みながら、かいつまんで状況を説明する。

「ふーん、なんか青春ね〜」
ニヤニヤした顔は見なかったことにする。
「青春だったね〜長い片想いだったよ」
我ながら、よくあんなに長い間想い続けられたモンだと感心する。
今でも大して自分は変わったとは思わないけど。

それなりに、いろいろ知って
想いが伝わっても、それを継続させることの難しさや
お互いの状況や考え方のすり合わせとか
経験の数だけ、勉強にはなるけどーーー

「もう、あんなに純粋に人を好きになることなんてなさそう」
思わずこぼれた私のボヤきに、今度はサオリが吹き出した。
「ちょっ、やめてよー私たちまだ若いのに!!」
「だってさー、なんか恋愛ってシンドイなって思っちゃって」
「それは、分かる」
「でしょ。」

好きで、一緒に居られるだけでいい
そう思っていたけど
それが一番、難しい事のような気がする。

とくに、学生の頃のように
同じ空間で毎日顔を合わせる事もなく
お互いに生活リズムがあると尚更ーーー

「でもさ、その電話のカレは今ごろ何で連絡してきたんだろうね?」
「…さあ。暇潰しじゃない?」
「えーまさか〜」
「いや、アイツはそんなヤツなんだってば」
「ふ〜ん」
またサオリがニヤニヤしている。

だって、もうあの恋は
あの春に終わってしまったのだから。

あれは、あれで良い思い出。
だからこそ、こうして彼から連絡が来ても
舞い上がる事もなく、淡々と友達として認識できる。

変に振り回されなくて楽だ。

「なんかさー、もう次の恋愛は楽なのがいいな」
「ちょっとそれなんかヤダー」
「でも気持ち分かるでしょ」
「まあね」

二人で笑って、そろそろ授業に出るかと立ち上がった。
その日、クラスの半分の生徒が同じように2限からの出席だった。
なんてユルい仲間なんだ。
でも、それが今の私にはとても心地良かった。


そして土曜日。
約束の時間に、駅へ向かうと
「よー」
野々村が、先に待っていた。

なんだか
この感じが、瞬時にあの頃を思い出す。
二人で行った展覧会。

あの時、私はどういう気持ちだったのだろうか
もう、淡い色だけが残っているような。

それでも、やっぱり
久しぶりに会うと心は弾むもので。
(私も現金なヤツだな)
なんて内心、苦笑いするしかなかった。

「ごめんね、待った?」
「いや、今来たとこ」
「そっか。それで今日は何の用事だったワケ?」
あれから連絡も無く、今日も半信半疑で来たのだけれど。
どうやら目的があって来たことに間違いは無さそうだ。

「ん、俺さー観たい映画があったんだよ。」
「うん、それで?」
「今日まで公開なワケ。分かる?」
サッパリ分からん。

「で?」
「だーかーら、今から行くの」
「はい?」
野々村と、映画?
なんで?

「いいじゃんオマエ暇だったんだろ?ちょっとくらい付き合えよ」
ーーー暇だったら映画に誘う?
あの、野々村が??

私の頭は疑問符だらけだったけど
よく考えたら、最近映画なんて観ていない。
それくらいなら別にいいか、と
久しぶりの再会にもほだされ了承してしまった。

きっと、何かの気まぐれだろう。
いつもコイツはこんなヤツだった。
久しぶりの再会で、ちょっと会おうぜって思っただけだ。

私も嬉しいし、素直に喜ぼう。
「仕方ないなー、じゃあ…行きますか!」
私は当時に戻った気分で、ドキドキする心を楽しむ事にした。
それくらい、いいよね。
今だけは。
今、なら。
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