いちばん、すきなひと。
ちょっぴり早いけど、渡す。
駅に向かうと、野々村がちょうど改札から出てきた所だった。
「よー」
「……まさかこんな所に来るなんて思わなかったよ」
彼の通う大学とは正反対の方角だ。
ちょっと寄ろうなんて気持ちで来るはずがない。
「お、みやのっちソレちゃんと付けてるじゃん」
チェックが早い。
「うん、気に入ってるよ」
ありがとう、と改めてお礼を伝える。
「それで?今日は何の予定があってこっちまで来たワケ?」
私は早速本題に入ろうと尋ねると、彼は少し面倒くさそうに理由を話した。
「ちょっと友達に頼まれてさー、こっちでしか売ってない食べ物があるとか何とかで」
「あー、この辺洋菓子で有名だからね」
「みやのっちなら詳しいかと思って」
「野々村よりは多分知ってる」
「言うね〜」
彼は私の隣に並んで肘で小突きつつ、スマホを片手に何やら操作している。
「あ、これこれ」
どうやら写真付きで指名されたようだ。
画面を覗くと、有名なお店のスイーツの写真だった。
「あー、これ知ってる。美味しいんだよね」
「らしいな」
「うん、友達がバイトしてるからたまにもらうよ」
「マジか!」
俺にもくれよ、と言うのを華麗にスルーして
私はお店まで案内した。
目的のお菓子を無事に購入し、二人で駅に戻る。
「サンキュー、みやのっち連絡ついて良かったー」
「お役に立てて何より」
彼はスマホで時間を確認して、私に尋ねる。
「この後…もう家に帰るだけか?」
「うん、そうだよ」
「よし、んならちょっとだけ休憩」
「どこで?」
そう言って入ったのは、駅前のコーヒーショップだった。
「何飲む?」
「うーん、モカにしようかな」
野々村は二人分のコーヒーを手に持ち、店内の空席を探す。
幸い近くにちょうど良いソファ席を見つけ、向かいあって座ることにした。
「はー、任務完了だ完了!」
彼はそう言って友人にメッセージを送った。
「任務って」
私が笑うと、野々村はふてくされて頬杖をつきボヤく。
「この間、レポート提出がヤバくってさ。友達に手伝ってもらったらコレだよ」
「……なんか、相変わらずだね」
「何がだよ」
別に、と私は話を終わらせコーヒーの香りを楽しむ。
ノートやワークを必死でいつも借りに来てた事を思い出し、ニヤニヤしてしまった。
今もそうやって、楽しく過ごしている姿が想像できてしまうからだ。
ひとしきり休憩を楽しんだあと、二人で電車に乗る。
特に何かを話すワケじゃないけど、まったりとしたこの雰囲気が落ち着く。
いつもの慣れた窓の風景も、今日は少しだけ違って見えた。
駅前で、野々村はまだ予定があるらしく
「じゃ、気をつけて帰れよ」
と、私の頭に手を乗せる。
「うん、コーヒーご馳走様」
「付き合ってもらった礼だし」
はは、と二人で笑って。
「あ、そうだーーーこれ」
やっと、私はカバンから一つの包みを取り出した。
いつ渡そうかと思っていたもの。
「なにこれ?」
「ちょっとだけ早いけど、チョコレート……ブレスレットのお礼ね!」
照れ臭くてつい、言い訳をしてしまう。
バレンタインは少し先だけど、次いつ会えるかなんて分からないし。
そう思うと、どうしても渡しておきたくなったのだ。
「…………おう」
彼は突然の事にしばらく驚いて言葉を失っていたようだけど
慎重に、それを受け取ってくれた。
とっくの昔に告白してるから
今更、何も伝えることなんて無いんだけど。
今まで、彼に気持ちを知られるのが怖くて
一度も渡せなかった私にしては、大きな進歩だった。
これに対しての返事なんて、必要ない。
もう、十分満足だ。
じゃあね、と何事もなかったかのように手を振って
私は軽い足取りで家に帰った。
少しだけ、成長したような気がする。
「よー」
「……まさかこんな所に来るなんて思わなかったよ」
彼の通う大学とは正反対の方角だ。
ちょっと寄ろうなんて気持ちで来るはずがない。
「お、みやのっちソレちゃんと付けてるじゃん」
チェックが早い。
「うん、気に入ってるよ」
ありがとう、と改めてお礼を伝える。
「それで?今日は何の予定があってこっちまで来たワケ?」
私は早速本題に入ろうと尋ねると、彼は少し面倒くさそうに理由を話した。
「ちょっと友達に頼まれてさー、こっちでしか売ってない食べ物があるとか何とかで」
「あー、この辺洋菓子で有名だからね」
「みやのっちなら詳しいかと思って」
「野々村よりは多分知ってる」
「言うね〜」
彼は私の隣に並んで肘で小突きつつ、スマホを片手に何やら操作している。
「あ、これこれ」
どうやら写真付きで指名されたようだ。
画面を覗くと、有名なお店のスイーツの写真だった。
「あー、これ知ってる。美味しいんだよね」
「らしいな」
「うん、友達がバイトしてるからたまにもらうよ」
「マジか!」
俺にもくれよ、と言うのを華麗にスルーして
私はお店まで案内した。
目的のお菓子を無事に購入し、二人で駅に戻る。
「サンキュー、みやのっち連絡ついて良かったー」
「お役に立てて何より」
彼はスマホで時間を確認して、私に尋ねる。
「この後…もう家に帰るだけか?」
「うん、そうだよ」
「よし、んならちょっとだけ休憩」
「どこで?」
そう言って入ったのは、駅前のコーヒーショップだった。
「何飲む?」
「うーん、モカにしようかな」
野々村は二人分のコーヒーを手に持ち、店内の空席を探す。
幸い近くにちょうど良いソファ席を見つけ、向かいあって座ることにした。
「はー、任務完了だ完了!」
彼はそう言って友人にメッセージを送った。
「任務って」
私が笑うと、野々村はふてくされて頬杖をつきボヤく。
「この間、レポート提出がヤバくってさ。友達に手伝ってもらったらコレだよ」
「……なんか、相変わらずだね」
「何がだよ」
別に、と私は話を終わらせコーヒーの香りを楽しむ。
ノートやワークを必死でいつも借りに来てた事を思い出し、ニヤニヤしてしまった。
今もそうやって、楽しく過ごしている姿が想像できてしまうからだ。
ひとしきり休憩を楽しんだあと、二人で電車に乗る。
特に何かを話すワケじゃないけど、まったりとしたこの雰囲気が落ち着く。
いつもの慣れた窓の風景も、今日は少しだけ違って見えた。
駅前で、野々村はまだ予定があるらしく
「じゃ、気をつけて帰れよ」
と、私の頭に手を乗せる。
「うん、コーヒーご馳走様」
「付き合ってもらった礼だし」
はは、と二人で笑って。
「あ、そうだーーーこれ」
やっと、私はカバンから一つの包みを取り出した。
いつ渡そうかと思っていたもの。
「なにこれ?」
「ちょっとだけ早いけど、チョコレート……ブレスレットのお礼ね!」
照れ臭くてつい、言い訳をしてしまう。
バレンタインは少し先だけど、次いつ会えるかなんて分からないし。
そう思うと、どうしても渡しておきたくなったのだ。
「…………おう」
彼は突然の事にしばらく驚いて言葉を失っていたようだけど
慎重に、それを受け取ってくれた。
とっくの昔に告白してるから
今更、何も伝えることなんて無いんだけど。
今まで、彼に気持ちを知られるのが怖くて
一度も渡せなかった私にしては、大きな進歩だった。
これに対しての返事なんて、必要ない。
もう、十分満足だ。
じゃあね、と何事もなかったかのように手を振って
私は軽い足取りで家に帰った。
少しだけ、成長したような気がする。