いちばん、すきなひと。
居心地の良い距離とは何なのかー野々村目線2ー
中3をそうして、ゆらゆらと過ごしているうちに
いつの間にか卒業を迎える。

区切りだと、思った。
色々な意味で。

この、淡い思いと
それを持て余す自分の不甲斐ない幼さと。
背伸びしたい感情と。

高校に行けば、お互いそれぞれの道を歩み
それなりに、程よい関係を保てるだろう
そう思った。

全ては、幼さだと。
そうじゃなかったのに。

だけど
彼女とはまた同じクラスで
それを喜ぶ自分も居て

もう少し、もう少しだけ
どうかこのままで
そんな馬鹿な甘えた心で
彼女と相変わらずな毎日を過ごした。

高校生になり、新しい友人関係が増え
気づけば彼女は、どんどん綺麗になってゆく。
それとともに、急に痩せていく姿に心配もした。
やはり何か、抱えているんじゃないだろうかと。

けれど
そこに踏み込める程の間柄でもなく
歯がゆかった。

今までと同じように接しているつもりなのに
彼女はどんどん、遠い人になっていく気がした。
俺の知らない、顔をするようになった。

それでも、ふざけた会話は健在で。
俺は必死にそこに縋った。
前に進もうとするアイツが、遠くに行ってしまうのが嫌で
気づかないフリをした。


幸い、友達の松田が少し可愛げのあるヤツで
上手に彼女の懐に入るようになった。
俺が触れられない話題にも、すんなり突っ込みを入れる。

そんな松田が少し羨ましくも、アイツのおかげで
『友達』という線引きがとても、楽になった。

こうやっていつまでも馬鹿やってればいい。
楽しけりゃいいじゃないか。
そう、思えるようになった。

肝心な時は、相談に乗ってやればいい。
そうして支えてやれれば、いい。
それ以上は、無理だろうから。


登下校時に、
アイツが知らない先輩と歩いているのを見かけた事もあったが
中学が一緒だった事を武器にして、相変わらずなフリをして
彼女の側に居続けた。

それしか、できなかったんだ。

彼女が、誰と歩こうが
俺にそれを何か言う理由もなく。
アイツが楽しそうなら、
それでいい。
何かあった時に、側にいてやれればいい。

別の人間がそのポジションを得るのなら
そこで俺は身を引こう。
あくまで、俺は
みやのっちの、親友だ。

対等で、いこう。


そう思っていた矢先に、アイツが倒れた。
貧血だ。
文化祭の疲れが出たのだろう。

保健室で、つい喧嘩口調になってしまった事を
まだ、覚えている。

何かあったら言えよ、といつも言っているのに
アイツはいつも、言わない。
それは彼女なりの気遣いや強さだったのかもしれないが
俺はそんなに信用ないのかと、落ち込んだ。

こんな時すら、支えることが出来ないのかと。
彼女はただひたすら謝るばかりだった。
その言葉を聞けば聞くほど、俺はもう役立たずな気がして。
もう、いっそ離れるべきなんじゃないかと、思った。

そんな中、舞台袖であいつの背中を送り出せたことは、誇りに思っている。
俺にしかできないこともあるんだと、気づいた。

全てが片付いたと、後の打ち上げで聞いた。
一体何の話か分からなかったが、彼女なりに考えて乗り越えたことを報告してくれたのだろう。
それだけで、十分だった。
話し相手として、俺を選んでくれたこと。
やっと、アイツが少し素直になったと思った。

みやのっちを支えて走らせるのは、俺の役目だ。

それはもう、恋とかそんな簡単な話じゃない。
親友とか、家族とか。
そういった距離で、彼女を応援していたんだと思う。
きっと、アイツがそれを望んでいたから
俺も期待に応えたまでだ。


そんな、気がする。


元気のない時は支える。
それで十分だと思っていたのに
時々、欲張りになってしまう。

その度に、うまく行かないことを実感し
元の立ち位置を探す。

高校生になったら、もっと大人になれるもんだと思っていた。
それなのに、ますます子供じみた感情が湧き上がり
それをどうやってやり過ごすか、そんな事の繰り返しだった。


そんな時、通い先の塾で
俺の事が好きだという子が現れた。
最初は興味ないから断ろうと思っていたのだけれど

今の、みやのっちとの関係が
このままでは良くない気がして。
この、苦しい呪縛から一歩でも抜け出せるならと
告白してきた子と、付き合ってみることにした。


彼女もまた、良い子で
話も聞き上手な上に、俺の事もよく理解してくれた。
俺が素直になれない時も、それを汲んで付き合ってくれた。
行き場のない俺の心を、支えてくれたのは
あの子だった。

だからこそ
アイツとの距離も、ほどよく保つことが
できたんだ。


クラスも変わり、たまにしか会う事もなくなり
ますます、疎遠になっていった。
これぐらいが、丁度良いのだ。
今までが、近すぎた。

こうして、たまに顔を合わせて馬鹿やって
それで時が経てば
このまま楽しい思い出になるだろう。
そう、思う事にした。
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