いちばん、すきなひと。
揺らぐー野々村目線3ー
とある冬休み。
部活の帰り道。
ふいに、アイツが言っているのを聞いた。
「……さみしいって感じ」
こういう時、俺はどうすればいいのか。
少し考えて、結局いつもどおり茶化してしまう。
俺には付き合っている彼女がいる。
その存在のおかげで、コイツとも冷静に話ができる。
俺には俺の人生や生活があって、
同じようにコイツにも、それがある。
ただ、それだけのこと。
そう思えるようになった。
だからつい、その美術部の部長が好きだったとかどうとかという由香からの情報も
面白おかしく持ち出し、からかいつつも様子を探った。
俺がいるじゃねーか。
そう言いたかったけれど、俺ができる事にはもちろん限りがあって
その時、そこで気軽に言える言葉ではなかった。
そのうち、付き合っている彼女の存在を
アイツが知る事になる。
本当は、気まずかった。
だけど、俺たちの不甲斐ない距離を決定づけるには良い機会でもあってーーー
「なーるーほーどーねー」
ニヤニヤと楽しそうに俺を小突いてくるアイツを見て、複雑な心境になった。
だけどその時の顔が、あまりにも泣きそうで
(なんでそんな顔するんだよ)
そう思ったけど
今更そこへ引き返せるはずもなく。
どうせ、俺が心配したところで
アイツは本心を見せない。
平気なふりをする。
結局、俺はそれ以上近づけないんだ。
だからーーーーー
もう、追いかけない。
何かあったら、言ってくれればいい。
だけど、俺からあまりにも近づきすぎるような事は、もうしない。
そう、決意した。
俺は、俺の側にいる彼女を大事にする。
それで、いいんだ。
翌日からまた、いつもどおり
ふざけた友人関係になればいい。
それでもつい、心配してしまって
踏み込み過ぎそうになるのだけれど。
松田もいる。
三人で仲良く適当にやればいい。
そう思っていた。
それがあんなにややこしくなるとは、思いもしなかった。
修学旅行でのオリエンテーションで
松田とみやのっちが何か話し込んでいる様子が遠くに見えた。
お互い、あまり顔を見合わせずにいるが
何か話しているのだけは、分かる。
その後、それについて聞こうとするも
二人にはぐらかされ、なんとも変な予感がした。
もしかして、松田はーーー
それならそうと、言えばいいのに
だけど確証もなく。
俺が今更そこへ真面目に入る余地もなく
俺は自分の道を歩けば良いのだと思い
彼らから距離を置く事にした。
ちょうど受験シーズンだ。
ふざけている場合ではない。
色恋沙汰に振り回されて、人生踏み外すのはごめんだ。
松田とアイツが同じクラスな事もあって
二人が仲良くするのが嫌でも目につくようになり
俺はますます距離を取るようになった。
だけど何かと気になってしまうのが本音で
つい、姿をみると話しかけてしまう。
それくらい、いいよな。
それくらいはーーーーー
そう、思っていたのに。
思いがけない出来事だ。
春の卒業も目前という時に
ありえない言葉を聞いた。
「でもさーそんな野々村のことが、好きなんだよね」
「え?」
「…だーかーらっ、私は野々村のことが好きなんだってば」
一瞬、頭が真っ白になった。
コイツ、今なんて言った?
なんて?
状況と言葉の意味を理解するのに、しばしの時間が必要だった。
それくらい、驚いた。
けれども
俺の答えはもう、決まっている。
「ごめんな、俺…彼女いんだわ」
「うん、知ってたよ」
予想通りの会話。
なぜ、こんな茶番をしなければいけないのか。
だけどこれが、その時の俺の精一杯だった。
目の前のコイツに対しても
いつも支えてくれる彼女に対しても。
俺は、俺の人生を歩むと決めた。
みやのっちも、自分で歩け。
これからも、何かあれば支えてやりたい。
力になって、やりたい。
だけどそれは、恋愛感情ではなく
きっと、情だ。
みやのっちとそういう関係になると
もう、今までのように戻れない気がする。
それが怖くて、衝動に身をまかせることを拒んだ。
俺たちはきっと、今のままがいいんだ。
そうしたら、また会える。
また、楽しく笑いあえる。
そのほうが、長く繋がっていられる。
これで、いいんだ。
今の俺には、謝ることしかできない。
俺も、好きだったよ。
お前のことが。
でも、遅すぎた。
きっと、出会った頃なら
もっと純粋に、楽しくいられたかもしれない。
だけど、今はーーー
最後まで無理して笑う彼女に、心が痛んだ。
もう、支えてやれない。
今は、側にいられない。
急いで帰る彼女の背中を見送って、
拳を力一杯握りしめる。
「……っきしょ……」
やり場のない感情を持て余したまま
俺は必死で冷静になれと自分に言い聞かせ、帰路についた。
部活の帰り道。
ふいに、アイツが言っているのを聞いた。
「……さみしいって感じ」
こういう時、俺はどうすればいいのか。
少し考えて、結局いつもどおり茶化してしまう。
俺には付き合っている彼女がいる。
その存在のおかげで、コイツとも冷静に話ができる。
俺には俺の人生や生活があって、
同じようにコイツにも、それがある。
ただ、それだけのこと。
そう思えるようになった。
だからつい、その美術部の部長が好きだったとかどうとかという由香からの情報も
面白おかしく持ち出し、からかいつつも様子を探った。
俺がいるじゃねーか。
そう言いたかったけれど、俺ができる事にはもちろん限りがあって
その時、そこで気軽に言える言葉ではなかった。
そのうち、付き合っている彼女の存在を
アイツが知る事になる。
本当は、気まずかった。
だけど、俺たちの不甲斐ない距離を決定づけるには良い機会でもあってーーー
「なーるーほーどーねー」
ニヤニヤと楽しそうに俺を小突いてくるアイツを見て、複雑な心境になった。
だけどその時の顔が、あまりにも泣きそうで
(なんでそんな顔するんだよ)
そう思ったけど
今更そこへ引き返せるはずもなく。
どうせ、俺が心配したところで
アイツは本心を見せない。
平気なふりをする。
結局、俺はそれ以上近づけないんだ。
だからーーーーー
もう、追いかけない。
何かあったら、言ってくれればいい。
だけど、俺からあまりにも近づきすぎるような事は、もうしない。
そう、決意した。
俺は、俺の側にいる彼女を大事にする。
それで、いいんだ。
翌日からまた、いつもどおり
ふざけた友人関係になればいい。
それでもつい、心配してしまって
踏み込み過ぎそうになるのだけれど。
松田もいる。
三人で仲良く適当にやればいい。
そう思っていた。
それがあんなにややこしくなるとは、思いもしなかった。
修学旅行でのオリエンテーションで
松田とみやのっちが何か話し込んでいる様子が遠くに見えた。
お互い、あまり顔を見合わせずにいるが
何か話しているのだけは、分かる。
その後、それについて聞こうとするも
二人にはぐらかされ、なんとも変な予感がした。
もしかして、松田はーーー
それならそうと、言えばいいのに
だけど確証もなく。
俺が今更そこへ真面目に入る余地もなく
俺は自分の道を歩けば良いのだと思い
彼らから距離を置く事にした。
ちょうど受験シーズンだ。
ふざけている場合ではない。
色恋沙汰に振り回されて、人生踏み外すのはごめんだ。
松田とアイツが同じクラスな事もあって
二人が仲良くするのが嫌でも目につくようになり
俺はますます距離を取るようになった。
だけど何かと気になってしまうのが本音で
つい、姿をみると話しかけてしまう。
それくらい、いいよな。
それくらいはーーーーー
そう、思っていたのに。
思いがけない出来事だ。
春の卒業も目前という時に
ありえない言葉を聞いた。
「でもさーそんな野々村のことが、好きなんだよね」
「え?」
「…だーかーらっ、私は野々村のことが好きなんだってば」
一瞬、頭が真っ白になった。
コイツ、今なんて言った?
なんて?
状況と言葉の意味を理解するのに、しばしの時間が必要だった。
それくらい、驚いた。
けれども
俺の答えはもう、決まっている。
「ごめんな、俺…彼女いんだわ」
「うん、知ってたよ」
予想通りの会話。
なぜ、こんな茶番をしなければいけないのか。
だけどこれが、その時の俺の精一杯だった。
目の前のコイツに対しても
いつも支えてくれる彼女に対しても。
俺は、俺の人生を歩むと決めた。
みやのっちも、自分で歩け。
これからも、何かあれば支えてやりたい。
力になって、やりたい。
だけどそれは、恋愛感情ではなく
きっと、情だ。
みやのっちとそういう関係になると
もう、今までのように戻れない気がする。
それが怖くて、衝動に身をまかせることを拒んだ。
俺たちはきっと、今のままがいいんだ。
そうしたら、また会える。
また、楽しく笑いあえる。
そのほうが、長く繋がっていられる。
これで、いいんだ。
今の俺には、謝ることしかできない。
俺も、好きだったよ。
お前のことが。
でも、遅すぎた。
きっと、出会った頃なら
もっと純粋に、楽しくいられたかもしれない。
だけど、今はーーー
最後まで無理して笑う彼女に、心が痛んだ。
もう、支えてやれない。
今は、側にいられない。
急いで帰る彼女の背中を見送って、
拳を力一杯握りしめる。
「……っきしょ……」
やり場のない感情を持て余したまま
俺は必死で冷静になれと自分に言い聞かせ、帰路についた。