私と王子様のプロローグ
「先生には警戒心なく近づくのに、俺にはむき出しなんですね」
「そういうわけじゃ」
「いいですよ別に。その方が———」
神崎さんは何かを言いかけて、けれど言葉を飲み込んだ。
一瞬蓮見先生の方に顔を向けてから『次の打ち合わせも、よろしくお願いいたします』と言って別のテーブルへ行ってしまった。
「なんだったんだろう」
今の。
神崎さんはどういう意図で私と話していたのか。
『その方が』のあとに続く台詞を言わなかった理由は。いや、言いたくても言えなかったとか?
いくら考えたところで結論にたどり着かない。今はやめておこう。
「蓮見先生のところに行かないと」
何か困ったことがあったかもしれない。顔には出していなくても、万が一のことがあったら困る。
そう思って人の間を縫うようにして近づこうとすると。
「水野さん、こんにちは」
「っ……こんにちは」
まずい、つかまってしまった。でもせっかく話しかけてくれたのに無視するわけにもいかない。