私と王子様のプロローグ


「もうパーティーも終盤だ。帰ろうか、梓」


帰ろうか。


そう言ったときの顔は、一流作家として王座につく『蓮見夏希』ではなく『夏木千尋』のそれだと思った。


「でも、蓮見先生はまだ会場に残るんですよね?」


だったら自分も最後まで残る、と言おうとして唇に人差し指があてがわれた。


「俺も帰る。確か梓の住んでるとこは南川だったよね?なら俺の家の方が近いからそっちに行こう」


「……ですが」


「もう決まりだ。このパーティー自体入退場自由だし、最後までいなきゃいけない決まりはない」


『それより梓の体調の方が優先だ』とすぐに杉本さんに電話して帰宅許可をもらったらしい。


「杉本さんが車出してくれるって」


「貴重なお時間を……私のせいで、申し訳ありません」


「これは俺のわがままだ、梓が気にすることじゃない」


少しして合流した杉本さんにも心配されつつ、車で会場を出た。


「蓮見、水野を頼んだぞ」


「言われるまでもないさ」


< 39 / 77 >

この作品をシェア

pagetop