私と王子様のプロローグ
「もうパーティーも終盤だ。帰ろうか、梓」
帰ろうか。
そう言ったときの顔は、一流作家として王座につく『蓮見夏希』ではなく『夏木千尋』のそれだと思った。
「でも、蓮見先生はまだ会場に残るんですよね?」
だったら自分も最後まで残る、と言おうとして唇に人差し指があてがわれた。
「俺も帰る。確か梓の住んでるとこは南川だったよね?なら俺の家の方が近いからそっちに行こう」
「……ですが」
「もう決まりだ。このパーティー自体入退場自由だし、最後までいなきゃいけない決まりはない」
『それより梓の体調の方が優先だ』とすぐに杉本さんに電話して帰宅許可をもらったらしい。
「杉本さんが車出してくれるって」
「貴重なお時間を……私のせいで、申し訳ありません」
「これは俺のわがままだ、梓が気にすることじゃない」
少しして合流した杉本さんにも心配されつつ、車で会場を出た。
「蓮見、水野を頼んだぞ」
「言われるまでもないさ」