私と王子様のプロローグ
『溺れちゃえばいいのに』
耳元で、誰かが囁く。
蓮見先生の世界に、飛び込んでしまえばいいのにと。
自分たちの関係が本来どういうものなのかも、理解してるけど。
「梓?」
考え込んでいたところで、お風呂から上がった蓮見先生が首を傾げた。
「いえ!いろんな言語の本があって、面白いなと」
「ああそれ。向こうの神話についての本なんだ。半年後出版される短編集のための」
「文明社とうちの合同企画ですね」
お風呂上がりの蓮見先生は、水分を含んでしっとりした髪とシャツからのぞく鎖骨が目に毒だ。
けど本人はお構いなしに私の隣に座る。
「蓮見先生、ちゃんと髪は拭かないと」
「そこは、私が乾かしますって言ってほしかった」
「ドライヤー持ってきますね」
「いいよ今日はもう」
よくない。蓮見先生に風邪を引かせたら私は解雇されてしまう。