私と王子様のプロローグ
「……美味しい!」
「よかった」
コーヒー自体もびっくりするくらい美味しいけど、蓮見先生が淹れてくださったっていうだけで何倍も美味しく感じる。
そういえば杉本さんも引継ぎをしているときに、『あいつのコーヒーはうまかった』って言ってたっけ。
このまま穏やかに流れる時間を楽しんでいたいけど、それは叶わない。
「改めまして、本日より蓮見先生を担当させていただきます水野と申します」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
優雅にコーヒーを飲み微笑む先生は、絵画のように美しい。
気を抜くといつまでも魅入ってしまいそうで困る。
「杉本さんから、水野さんのことは聞いてるよ。仕事ができる後輩がいるんだって。たまにパーティーにもいましたよね?」
確かに業界の交流会に参加したことはあるけど、蓮見先生はすぐに色んな人に囲まれているから。
自分が参加していたことすら知らないんじゃないかって思っていた。
「覚えていてくださって、ありがとうございます。今日はCMの案件を中心にお話させていただければなと思いまして」
そう言えば、蓮見先生の雰囲気が少し変わった。
「水野さんとは、上半期のロングセラー作品の共通点について語り明かせたらなって思うんだけど」
「そのお話は、CMの脚本の件を承諾していただきたいた後に語り合いましょう」