私と王子様のプロローグ
蓮見先生は国内だけでなく海外からも取材されたりと多忙な人だ。
でも、今まで仕事を断ったという話は聞いたことがない。
そんな蓮見先生が今回は難色を示した。
長い間担当してきた杉本さんですら、この件については口説き落とせなかったという。
「もしよろしければ、今回の案件を承諾していただけない理由を教えてもらえないでしょうか?改善できることがあればすぐに行動します」
「……愛を感じないって、いわれる作家が。ウエディング企業の脚本を書かない方がいいでしょ」
クライアント企業と広告代理店の担当者によれば、恋人同士が出会うところからそのウェディング会場で結婚するまでを短編形式で公開していきたいらしい。
なんでもその企業の社長が蓮見先生の昔からのファンで、ぜひお願いしたいとのこと。
「ファンの方から手紙でそう言われたと、上司から聞いております」
「初めてだったよ。多分高校生だと思うけど、手紙に書いてあったんだ」
蓮見先生は引き出しから一通の手紙を取り出して、私の方に向けた。
可愛らしい封筒や字の書き方的に、先生の言う通り学生っぽい気がする。
「先生のファンです。新作の『パラダイスロストに永遠を』読みました」
手紙の内容をまとめると、この子は先生のデビュー作から最新作まで読み続けている。
いつも作品を楽しみにしているけど、いつからか『先生の作品からは愛を感じない』と思うようになったらしい。
それが今回の作品で確信に変わり、手紙を書いたと。