カリスマ副社長はフィアンセを溺愛する
婚約を発表される迄の一ヶ月は早く感じた。

副社長と並んで歩いていても、周りは副社長と秘書と信じている。

誰も恋人同士なんて思ってもいない。

それは秘書課内でも同じだ。


「副社長室に行ってきます。」

「宜しくね。」


秘書課で声を掛けても、私が副社長室に仕事で行くのは当たり前だった。

もし婚約していると知れ渡ったら、秘書課の他の女子社員はどんな目で見るのか。

そんな事が気になり始めた。


「雨宮さん、コーヒーを持っていくの?」

「はい。」

「ねぇ、副社長って恋人いるの?」

「…………いるみたいですよ。」

「やっぱりね。」


今まで副社長秘書は恵さん一人だけだった。

恵さんは岬家の一員で副社長の妹だ。

そんな話題を恵さんには聞けなかったのだろう。

私にはガツガツ聞いてくる。

先輩秘書に一礼して、その場を足早に去る。

給湯室で一人大きな溜め息を漏らした。


「あー、どうしよう。」


先輩秘書が副社長を狙っているのは伝わっている。

婚約が知れ渡る。

悩みのタネになっていた。
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