カリスマ副社長はフィアンセを溺愛する
ふと慈英の言葉を思い出す。


「『俺と恋を始めてくれないか?』」

「あー、懐かしいな。心菜はちゃんと覚えてるか?」


「覚えてる。慈英みたいに出逢った日は覚えてないけど、この言葉は私の心に焼きついてるよ。」


慈英が必死に私を口説いていた日々を思い出す。

私がバイトに入る日には何故か現れていた慈英。

猫を被っていた慈英に笑いが込み上げる。


「覚えてる?慈英、最初は紳士だったよね?」

「今もだろ。」

「今は違うでしょ。まあ外面は紳士だけどね。」


身近な人には本心を曝け出している。

でも会社での接し方は人当たりの良さを強調して過ごしている。

舌打ちなんて絶対にしない。

荒っぽい言葉も絶対に出さない。

休憩時間には穏やかなイケメンだが、仕事中の慈英は的確な指摘や指示、いくつものプロジェクトを成功に導いたカリスマリーダーである。

カフェに通う彼は前者だった。

優しそうな笑みを絶やさず、大人の余裕と雰囲気を漂わせていた。

そんな彼が何を考え過ごしていたのかは…………今でも読めないでいる。
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