カリスマ副社長はフィアンセを溺愛する
「あの頃、心菜に会える場所はカフェしかなかった。」

「うん。」

「もどかしくて仕方なかった。もっともっと近づきたい一心で通った。」

「ふふっ、売り上げに貢献してくれてたよね。」


茶化してみても慈英は笑わない。

真剣な表情が崩れないまま話は続けられた。


「最初の出逢いで失敗してたから、余計に心菜と話せるチャンスもなかった。」

「…………。」

「でも心菜と話せるチャンスを作りたくて、こっそりカフェで見てたの気付いてた?」

「全然。」

「大人の余裕?はっきり言って、心菜にはなかった。どうしたら好印象を与えられるかしか考えてなかった。」


あの頃を思い出してみるが、見られていたなんて知らなかった。

でも店長は気づいてたんだろう。

何かと慈英のテーブルに向かわせていたのには気付いていた。


「心菜に告白した時も…………人生で一番緊張した。」

「うーん、見えなかったよ。大人の余裕って感じで『恋を始めてくれないか』って言われたような。」

「見た目だけ。内心は『フラれたらどうしようか』って考えてた。」
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