カリスマ副社長はフィアンセを溺愛する
『もうすぐ結婚する』


私の気持ちが前に進み始める。

夕飯帰りの車内で、左手薬指に嵌めた指輪をぼーっと見つめる。

私に贈られた婚約指輪は入社一年目の私には不釣り合いに思える。

この指輪を見た人達は何て思っているのだろうか。


「心菜?」


ぼーっと指輪を見つめていた私に、隣から声を掛けられて顔を上げた。


「何?」

「どうかしたか?」


心配そうな声が聞こえて、運転中の慈英に視線を向けた。

前を見て運転する慈英だが、ちらちらと私の方を気にしている。

そんな慈英を安心させたい私は首を横に振った。


「何でもない。ただ…………『この婚約指輪が似合ってるのかな?』って。」

「自分で言うのも可笑しいが似合ってる。」

「うん、ありがとう。一年目の私には豪華過ぎる気がしただけ。」

「俺は来年で社会人10年目だし、それに岬の看板もある。まあ、俺の我儘の一つだな。」


自嘲の笑みを浮かべる慈英の顔に胸が痛んだ。

慈英にも立場がある。

ちゃんと理解していたつもりだったのに。


「ごめん、変な事を言って。本当は嬉しいんだよ?こんな素敵な婚約指輪を嵌められて。」

「無理してないか?」

「してない。ありがとう、慈英。」


信号で止まった慈英と目が合う。


「慈英と私の想い描く未来は同じだから。嬉しいよ、慈英と結婚が出来て。」

「心菜。」


慈英に伝えたかった。

私と慈英は同じ想いだと言うことを。

結婚も子供も…………同じ想いだと伝えたかった。
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