カリスマ副社長はフィアンセを溺愛する
部屋には両親と私だけが残された。

静かな部屋にウエディングスタッフの声が聞こえた。


「お母様、式場の方へご移動願います。」


緊張してくる。

母が部屋から出て行けば、父と二人っきりだ。

滅多にない状況に沈黙が訪れるが、先に口を開いたのは父だった。


「慈英くんとは仲良くしてるか?」

「うん、してるよ。」

「一緒に暮らしてどうだ?大丈夫そうか?」

「うん。」

「そうか。仲良く末永く幸せになりなさい。」

「お父さん、今までありがとう。」


今まで言えなかった言葉がすんなりと出てきていた。

もう一度だけ軽く頭を下げてお礼を言う。


「お父さん、本当にありがとうございました。」


ふわりと揺れるベールに父が慌てる。


「わかったから。折角、綺麗に整えてあるのに。」

「これぐらい大丈夫だよ。」


微笑んで見せれば、父の幸せそうな顔が目に入ってきた。


『親孝行』


娘の幸せが親孝行なんだと痛感した。
< 209 / 216 >

この作品をシェア

pagetop