カリスマ副社長はフィアンセを溺愛する
私に背を向けてデスクに戻っていく背中を目で追い掛ける。

モデルのようにスーツの似合う男が副社長のデスクに座る姿をじっと見つめる。


「雨宮、コーヒーを。」

「あっ、はい。」


さっきまでの笑みは消え、資料に目を通す表情は少し冷たい雰囲気を醸し出している。

私が家で一緒に過ごしている慈英とは本当に別人のようだ。

それは入社式で既に感じていた事だ。


「直ぐにお持ち致します。」

「ああ。」


目の前で仕事をする男は副社長だ。

甘い雰囲気は消され、上に立つ人間の少し冷たい雰囲気に切り替わっている。

一礼して部屋を後にする。

廊下に出た私は目を閉じて、大きく深呼吸を繰り返した。


『私の婚約者は副社長ではなく岬慈英だ。』


心の中で呟く。

副社長の秘書になってから、会社での慈英と過ごす時間が圧倒的に長くなった。

家での慈英より副社長としての慈英ばかりと接するあまり、ずっと一緒に過ごしてきた慈英を見失っていたのかもしれない。
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