再会は突然に
「あの、ぎゅーってしてほしいの。よく寝れる気がして」
「え、え?」
「ちょっとでいいから・・・ダメ?」


突然の甘いお願いにフリーズしかけたが、必死で現実世界に引き戻す。

熱のせいか、トロンとした目でそんなお願いを言うなんて。
俺には誘ってるようにしか見えないが、何だ、これは何かの罰か?

そう自問しながらさっきより顔を赤く染める彼女を見ることしか出来なかった。


「・・・少しでいいのか?」
「うん、少しじゃないと、ずっとぎゅーってしたくなる」


困ったように微笑む彼女に、保っていた理性は音を立てて崩れる。

やっぱりこれは何かの罰だ。
一心不乱で仕事してたから?放置してたから?

あぁ理由なんてどっちでも、何でもいい。

甘んじて受けようじゃないか。

彼女の横に腰掛け、無言で腕を広げると子供みたいにパァと顔を輝かせた彼女が寄ってきて抱きしめて来た。
この時の俺は嬉しい、でも耐えなければならない、の二つの感情に苛まれることになる。


「ふふ、あったかいー」
「風香が熱いんだろ」
「そっか、また熱上がったのかなぁ」


あぁもう、なんで彼女はこんなに呑気なんだ。俺なんか平静を保つのに必死で、余裕のよの字もないぞ。

とにかく落ち着け俺。30間近の男がこんなことで理性を吹っ飛ばしてどうする。
確かに10年前より大人になった彼女に我慢するのは辛いことこの上ないが、彼女はあくまで病人だ。
何か別のことを考えないと、彼女の体の感触、吐息をずっと感じてしまうことになる。

それは何としても避けたい。
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