再会は突然に
そう考えながら頭の片隅で雑念を払うべく、うろ覚えのお経を唱える。
しかしうろ覚え過ぎて、南無阿弥陀仏しか唱えられない。すぐに彼女の感触、吐息を側で感じて、許されるなら叫びたいぐらいだ。

抑えろ自分、耐えろ自分。

頭の中で自らを鼓舞すること数十秒。抱きしめる彼女から、気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。


「風香・・・?」


そう呼びかけるも返答はなし。
仕方ないと抱き抱え、ベットに寝かせれば彼女の安心しきった顔が見えた。


「いくら熱があるからって無防備・・・」


恋人として、彼女の安心した顔が見れるのは嬉しいが、ここまで無防備だと襲いたくもなるし、どうか自分の前だけであってほしい、というかあってくれと祈りたくもなる。

・・・これは、早急に仕事を片付けてさっさと日本に戻って自分の目が届く範囲にいてもらうしかない。
となれば、これまで以上に働かなければならない。

まぁそれでも。
彼女の側にいられる未来があるなら、そんなのどうってことない。

俺は安心しきって眠る彼女の頭をひと撫でし、布団を整えて一旦部屋を出た。
一緒に日本に来ている同僚に電話をするためだ。


『あぁもしもし、今大丈夫か?』
『大希ですか?ホテルに戻ってこないからどうしたのかと思っていたところです』


丁寧口調で英国紳士の、同僚エドワードが俺の言いたいことを分かっているかのように電話越しで笑っている。

彼女の連絡先を渡してくれたのがエドワードだ。当然彼女のことは知っているし、その後彼女と付き合うことになったこと、指輪を渡したことも伝えてある。
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