再会は突然に
しかし、さっきから会社から出てくる人は誰一人としていない。

1階のロビーで待つ方法もあるといえばあるが、どちらかといえば来社用で社内の人が使うのは、そこで外部の人と話している場面ばかり。

場違いにもほどがある。もう業務時間外で誰もいないけど使いづらい。

とにかく、20時まであと10分ぐらい。
バクバクとうるさい心臓を止めたい。

しかし、いざ素面で大希を目の前にして話せるかすごく不安だ。
金曜の感じだと、覚えてくれているかも怪しいところ。

いや、ただハンカチを返してお礼と謝罪をすればいいんだけど、それだけで終わってしまってはせっかくの機会を逃してしまう。
食事なんかに誘えたらいいけど、そんなこと出来るわけもなく、とにかく何か一言でも話が出来たら、と思うばかり。

もっと積極的に、とも思うがやっぱり勇気のない私にはこの辺りが限界なのかもしれない。

考えれば考えるほどマイナスにしかいかない。
考えないように、と思えば思うほど考えてしまうのは本当にどうにかしたい・・・。


「風香?」


そんな時だった。
横で響く心地よい声で急に呼ばれ、思わず体がびくついてしまった。


「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど」
「え、だ、大希!?あれ!?」


横には何故か帰り支度の大希が立っていて、私の動揺加減に不思議そうな表情を浮かべている。
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