再会は突然に
「何もないよ、私帰るの遅い方じゃないから、暗いのって冬ぐらいだし。そもそも私なんかが」


襲われるとかないよ、と言おうとした。
しかしその言葉は言えなかった。


「相変わらず無防備」


その声がやけに近いと思ったのは間違いじゃなかった。
頭上から降って来る、という表現が正しいのかもしれない。

だって大希に抱きしめられているから。

何が起きたか理解するのに少し時間がかかった。まるで夢を見ているみたいだった。
ふんわり香ったのは、爽やかさと懐かしさ。
きっと爽やかさは香水だろうか、懐かしさは昔を思い出したから感じたのかもしれない。

大希に抱きしめられて、きっと混乱しているはずなのに頭の片隅で冷静に分析してる自分がいて余計何が何だか分からない。


「今も抵抗しないし」


大希に抱きしめられて抵抗するわけがない。ずっと、想ってた人に抱きしめられて抵抗するだろうか。

そんなの、するわけがないのに。
もし、そう言えたらどれだけいいだろうか。こんな時まで勇気のなさを発揮するなんて、私は本当バカだ。

何も言わない私に、大希は静かに体を離した。同時に今まで感じていた温もりも離れて行く。


「あの」
「戸締り忘れないこと」


少し寂しそうな顔をした大希だったが、すぐにいつものなんともない顔に戻り駅の方に歩いて行った。

残った私はしばらく放心気味で立ち尽くしていた。
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