Prologue
もう少し近くで川を見ようと思って、柵に手を伸ばした。
何も意識していなかったせいか、その手はするりと柵をすり抜けた。
「…、そっか」
わたしはもう一度、触れようと思いながら、柵に手を伸ばした。
ザッと足音が聞こえた。
わりと近い場所で聞こえた、立ち止まる音。
柵を掴んで不意にそちらを見れば、同い年くらいの男子がわたしの方を見ていた。
川に興味があるのかななんて思ったけれど、その人は真っ直ぐわたしを見つめている。
幽霊になった、視えないはずのわたしを、じっと。
「…幽霊?」
半信半疑に問いかける声。
小さく呟くような声なのに、わたしの耳にすっと届いた。
他のどんな音にもはばかれず、彼の声だけが、鮮明に聞こえた。
「…視えるの?」
聞き返した。
わたしの声が聞こえるとは限らないけれど、もしかしたら、なんて期待を込めて。
久しぶりに、誰かに向けて言葉を口にした。
誰かに声を聞かせたのは、本当に、久しぶりな気がした。