Prologue
彼に、わたしの声が届いたらしい。
その人は小さく肩を震わせ、少しだけ驚くと、視線だけ動かしてわたしの全身を見た。
それから、また、小さく頷く。
「やっぱり、幽霊か」
小さくつぶやく声だけど、やっぱり、鮮明に聞こえる。
遠くで電車の音が聞こえる。
偶然にも通りかかった車の音が聞こえる。
でも、どの音よりもずっと鮮明に、彼の声が耳に届く。
心地の良い声だと、そう思った。
彼は右肩にさげていたスクールバッグを左肩に背負い直すと、わたしの方へに近づいて来た。
それから、わたしの左側に立って、川の方を見る。
手を伸ばせば届いてしまうような距離。
わざわざ近くにまで来て、一体どういうつもりなのだろうか。
誰かがすぐそばにいる感じが落ち着かなくて、わたしは勇気を振り絞り問いかける。
「…何か、用?」
ほんの少しだけ、震えた声。
彼の方を見ると、彼もチラッとこちらを見てから、また川の方を見る。
一瞬見えた、制服のバッチ、見覚えがある。
わたしの通っていた学校の、近くにある高校じゃなかったかな。