Prologue


彼はそっと、ブレザーの襟を直しながら、

「別に」

と呟いた。


低すぎなくて聞き心地の良い、小さな声。

多分、人にはわたしが見えてないから、あまり大きな声を出すとあれだから、なるく小さな声で話してるんだと思う。

独り言みたいに、ポツポツと。


暗い色のチェックのネクタイは、彼の雰囲気によく似合っていた。

彼は沈んでいく夕日を見つめて、「ただ、」と、視線を落とし川を見た。

「霊感はないはずなのに、視えるから」

「、え…?」

拍子抜けして、聞き返す声が上ずった。

わたしが視えても大きく動揺することはなかったし、やっぱり幽霊か、なんて冷静に答えていたから、てっきり霊感があるのかと思っていた。

いつも見慣れてるみたいな、そんな感じの反応だったから。

…というか、霊感がなくても、幽霊って見えるものなんだ。


「霊感、ないんだ」

「ないよ」

短い言葉が返ってくる。

< 12 / 18 >

この作品をシェア

pagetop