Prologue
彼はそっと、ブレザーの襟を直しながら、
「別に」
と呟いた。
低すぎなくて聞き心地の良い、小さな声。
多分、人にはわたしが見えてないから、あまり大きな声を出すとあれだから、なるく小さな声で話してるんだと思う。
独り言みたいに、ポツポツと。
暗い色のチェックのネクタイは、彼の雰囲気によく似合っていた。
彼は沈んでいく夕日を見つめて、「ただ、」と、視線を落とし川を見た。
「霊感はないはずなのに、視えるから」
「、え…?」
拍子抜けして、聞き返す声が上ずった。
わたしが視えても大きく動揺することはなかったし、やっぱり幽霊か、なんて冷静に答えていたから、てっきり霊感があるのかと思っていた。
いつも見慣れてるみたいな、そんな感じの反応だったから。
…というか、霊感がなくても、幽霊って見えるものなんだ。
「霊感、ないんだ」
「ないよ」
短い言葉が返ってくる。