Prologue
そっか、そっか。って。
それ以上話すこともなくて、わたしは黙って柵にもたれた。
もたれようと、意識しながら、頼りない柵に身を任せる。
「霊感、ないのに、わたしが幽霊だってよく気付いたね」
気まずさを感じて、適当に言葉を紡ぐ。
「手が柵をすり抜けるの、見てたから」
彼はこちらを見ることなく、たんたんと答える。
わたしはまた、「そっか」としか言えなくなった。
沈黙が流れる。
普段なら気にしない無言の時間も、今回は特別気まずく感じた。
多分それは、少なからず彼のことが気になっているから。
何も言えないまま、少しばかり時間が過ぎて、彼は長い息をついた。
「変だな」
突然の言葉に、わたしはキョトンとして首を傾げた。
なんのこと、と口にはしなかったけど、表情から彼に伝わったらしい。
「霊感なんてないはずなのに、なんでお前だけ視えるんだろうな」
少しだけ、視線がわたしの方へ向いた。
きれいな黒髪が風になびいている。
少し長くて、左目がときおり前髪に隠れそうになっている。
わたしの髪は、風を受けないで、もうずっと止まったまま。