Prologue
素敵な名前だと、思った。
響きとか、そういうのが、なんだか綺麗だと。
マオって、女の子みたいな名前だとも、思ったけれど。
うん、でも、彼に、よく似合ってる名前だとも、思う。
彼は川の方を見つめたまま、「うん」と呟く。
わたしが名前を呼んだのに、反応してくれたらしい。
「…マオは、このへんに住んでるの?」
ふいに問いかけた。
彼はチラッとわたしのほうを見て、それからまた川を見つめた。
わたしも川の方を見る。
日の沈んでいく方角。
建物の影に、太陽が沈んでいく。
金色だった光が、赤く紅く染まっていく。
薄かった色が、濃いオレンジに変わっていって、川がその色を映して、キラキラと輝いている。
気付かぬうちに随分と日が暮れてしまったようだった。
「このへんに住んでて、このへんの学校に通ってる」
「…やっぱり」
ふっと笑みを浮かべると、彼も少しだけ微笑んでくれた。
「そっちは?」
目線だけ、こちらに向けられる。
「このへんに住んでて、このへんの学校に通ってた」
おんなじように返す。
でも彼とは圧倒的に違う。