Prologue
わたしはきっと、もうずっとこのまま。
暑いとか寒いとか感じずに、真夏でもブレザーのまま、ここに立っているのか。
…そういえば、そうか。もう、五月なんだっけ。
そりゃあ、暑い日も、あるんだなぁ。
彼は、私の言葉には、何も答えなくて。
さっと柵から手を離すと、視線だけ、わたしの方に向けた。
「そろそろ、帰る」
日はもうほとんど沈んでしまっていた。
川をはさむ街の明かりが、ぽつりぽつりと目立ち始めている。
視界の隅に、電車のライトが見えたりした。
「そうだね、そろそろ」
帰るべきだと、付け足せば、彼は分かってると小さく強く言い返す。
わたしはちょっと申し訳なくて、視線を落とした。
足元に、影はない。
彼の足元には、太陽と反対側にのびきり薄れかかった影ができていた。
ほんの少し、視線を上げた。
彼の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
「また、明日も来る」
冗談でしょう?と聞き返したくなるような言葉。
その真意を問う前に、彼はさっさとわたしに背を向けた。
来た道を引き返していった。
…たまたま、寄り道しただけなのだろう。
わたしがここで車に轢かれた日に、そうしたみたいに。