Prologue
だけどその次の瞬間、わたしの立っている方へ車が向かってきた。
橋を渡る車が、少し遅いスピードで近づいてくる。
目を離せずにじっと見つめていたけれど、運転手がわたしに気付く気配はない。
車はどんどん近づいて来て、スピードを落とす気配はない。
そのまま、わたしの体をすり抜けて、わたしの向こう側へと走っていく。
それで、やっと、わたしは死んで、幽霊になったのだと、そう理解した。
それからというもの、橋の中央、歩道の隅で何日も過ごしていた。
行くあてもなければ、やることもない。
幽霊ってみんな、この世に未練があるから彷徨ってると思ってたんだけど、案外そうでもないみたい。
考える限り、未練なんて何一つないんだけど、わたしは幽霊となってこの世をさまよっている。
ほんと、未練なんて、何一つないはずなのに。
友達なんて呼べる人は一人もいなかった。
話しかけるタイミングを見失って出遅れたせいか、いつの間にか一人になっていて。
わたしのことなんて興味がないのか、母はわたしのことに一切干渉してこない。
一人閉ざされた世界の中で、未練になりそうな人もいなければ、物もない。