夢のままでいたい。
「ま、………って、」
ぐっと腕に力を入れて立ち上がろうとする。
しかし、彼らのように足が動くわけでもなく、ドサリと血の海に体を倒してしまった。
兄から貰ったプレゼントの真っ白いナイトドレスが赤い血に染まる。
「おねがい、行かないで…っ」
ズルズルと惨めに這いつくばりながら手を伸ばす。
縋るように。願うように。
おねがいだから、これ以上壊さないで!
すると、先程の声の主の顔が見えた。
兄上の命を奪った人の憎い人間の男。
「…っ」
彼は少し驚いたあとに、哀しそうな顔をした。
「"ゆり"…」
彼は確かにそう言った。
純白の穢れのない清らかな花の名を呼んだのだ。いや、正確に言うならそれは花ではなく人の名前だろう。
少なくとも、私が普段呼ばれている名前ではない、初めて聞いた名だ。
「ぁ…ぁあ」
恐怖で声が出ない。
このままだと、私も殺される。
兄上と同じように。
目の前の男に殺されてしまう。
死んでしまう。
何もできぬまま。
誰の役にも立たぬまま。
………嫌だ。
死にたくない。
死にたくないよ。
「………見つけた。」
彼は子どものように無邪気な笑顔で笑ったかと思うと私を抱き上げた。
逞しいその腕は、兄を殺した男の腕とは思えないほどに温かくて、壊れ物を扱うかのように優しく、私を持ち上げたのだ。
「ひっ…」
兄上の命を奪った腕に抱かれたまま私は意識を失った。