溺愛王子様のつくり方
「そうだな、愛美さんといられるのはこれが最後かもしれないんだよな」



親父がそう呟いて、横たわる母さんを見つめる。



「学、ごめんな」



母さんを見たまま、俺に謝る親父の目からポロポロと零れてくる涙。



「父さん、泣いてる?」



遅れてICUに入ってきた環。
父さんの涙をみて、びっくりしている。

俺だって、びっくりして声を失っている。

普段、仕事も真面目で鉄壁で。
表情を崩すこともあまりないから。

それに、愛してもいない母さんのことで泣くとは思っていなかった。



「学、1度出ようか」



環が俺の肩を叩く。



「いやだ、母さんといる」


「少しだけ。父さん、泣いてるし。頼むから母さんと二人にしてあげて」



ニッコリと環が俺に微笑む。



「そんな洞察力あったっけ……」



環のこと、放浪者だとしか思っていなかった。

でも、まぁ昔から俺や母さんの感情にいち早く気づいていたのは環だったかもしれない。

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