溺愛王子様のつくり方
「あそこは俺と千菜美（ちなみ）が出会った場所なんだよ」


「え……？」



千菜美というのは、あたしのお母さんの名前だ。

久しぶりに誰かがお母さんの名前を口にしたことに、胸が熱くなる。

だって、あそこはたまたま見つけたシェアハウスで。
お母さんから、聞いていたわけでもない。
実際、お父さんはあたしが生まれる前に死んだと伝えられていたから。

幼いあたしに言っても理解なんてできなかったかもしれないけど。



「そこで、環とちとせが会ったのは千菜美が引き合わせたのかもしれないな」


「お母さんが……」



うっすらと記憶にあるお母さんの笑顔。
お母さんが亡くなったのが、幼い頃すぎてお母さんと暮らした記憶なんてほとんどない。

写真は、いつも肌身離さずつけているペンダントにある写真だけだし。
それ以外のものはすべて親戚に捨てられた。

だから、こうして誰かお母さんのことを知っている人と話をするのも久しぶりだった。

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