溺愛王子様のつくり方
「社長は……息子さんがあたしを気に入ってるって……」



昨日きいたままを口にする。
後退りしながら。



「俺、写真も名前も見てないよ。親父が結婚しろってうるさいからこの子気に入ったって1枚引き抜いただけ」



あたしの後退りにも構わずに、それでも歩みを止めない。



「そ、そうなんだ」



そうだよね。
あたしのことを、学くんが気に入るわけがない。
それに、あたしのことなら写真を見てすぐに気づくはずだ。

でも、少しでも期待した。
入った瞬間に見えた顔に。

やっぱり同じ気持ちなんだって。



「期待した?」



その言葉と同時にあたしの背中は壁に行きつく。

もう後ろはなかった。



「期待なんか……「するでしょ?君、俺のこと好きだったもんね?」



意地悪そうに笑ってあたしの言葉を遮る学くんになにも言えなかった。

期待したのは事実だから。



「どうして……」



なんていう運命なのだろうか。

でも、それでも。
諦めた人生に、好きな人と結婚して幸せになれるという未来があるなら。

それでもいいと思った。

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