キミの取り扱い説明書~君が冷たくする理由~

"好き"の理由


「はぁ…」


ガラガラと開けた扉の先に見えるのは、
薄暗い廊下と、窓に映る自分の姿。

誰もいないながーい廊下を
パタパタと靴音を立てて歩いていく。
時々、前から歩いてくる看護婦さんや他の患者さん達にペコリと頭を下げる。

そしてやっとのこと、
自動販売機の前に到着。

はい、只今の時刻。夜の8時です。
私は今、都内で有名な総合病院に来ている。

特に大きな病気とかではないんだけど、
最近、胃痛が酷くて…。

今日は胃カメラをしてきたんだけど…
あれはもう二度とやりたくない。

そう思うほどの痛みと辛さだった。
あれに耐えた自分を褒め称えてあげたいくらいだよ…


お金を入れて、欲しいドリンクのボタンを押す。
ガランッと出てきたペットボトルを片手に、
また足を動かしていく。


…ん?あれ…

ふと、目に入った病室の名前プレート。


「【中山 琥珀 様】…」


同性、同名…?

中山 琥珀…なんて
そんな滅多にいる名前じゃなくない?

まさか、ね…。

少し中を覗いてみたい衝動にかられた私は、
ゆっくりとその病室に近づいていって。
少しの隙間の間から中の様子を伺った。



「…それじゃ。おやすみなさい」


「うん。ありがとう。おやすみ」



中から聞こえてきた会話。
間違えない…間違えようがない。
何度も聞いてきたこの声。

甘くて、優しくて、落ち着く…
この声の持ち主は間違いなく、中山くん。

そして、中山くんと話していたのは…
背の高い、綺麗な大人の女性。

私は見たことのない人だ。
中山くんのお母さんにしては若すぎるし、
何にしろ、中山くんとあの女性の関係が気になる。

しばらくすると、女の人が病室の扉から出てきた。

ま、まずい!
完全に隠れるタイミング見逃した!!

ど、どうしよう…
この状況、かなりまずいよね?
へたしたら、不審者に思われるかも…
何て言い訳しようか。

自分なりに頭をフル回転させていると、
私を見て少し驚いた表情を見せた女の人は
私に少しだけ微笑んでコツコツとヒール音を立てて去っていってしまった。


えっ…?

何も聞かれなかった事に不思議に思って
後ろを振り返ると、
もうそこには女の人の姿はなかった。
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