私の運命、変えてみせます!


セット面ミラーもなく、ドライヤー、パーマの機械等々も一切置かれていないこの空間で、一体どのように髪を切ると言うのだろう。

そう言えば1年先も予約でいっぱいだと言っていたというのに、他のお客さんの姿も見られない。

疑問がぽつりぽつりと浮き出てきたが、その前にシェーレさんが私の髪をそっと撫でた。


「本当に綺麗な髪。切るのもったいないね」

「手入れはマメにやってましたから。でも、もうその必要もなくなったのでいいんです」


そう……この髪を伸ばし続けた所で、もう長い髪が好きだという人はいない。

失恋した証としても、区切りとしてもこの髪とはおさらばするのが一番いい。

髪を切ることで心もきっと軽くなって、新しい自分に出会えるはずだから。


「バッサリと切ってください。お願いします」

「かしこまりました。それでは初めていきますね」


そう言って何かを唱えたかと思えば、屋上で見たあの円が私の周りを囲むように浮かび上がった。

シェーレさんが何か唱えると、下から風が吹き上がってくる。

自然と髪が靡くその感覚に擽ったさを感じる。



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