ドクサイ╋ゲーム
ざっと読んで一息つく。この説明書の厚みからすると結構な条件がありそうだ。
つまりありえないが、これで人を消すことが出来る。と、漫画のようなお話になるわけだ。
武藤って自称科学者もずいぶん怪しいが、この《ドクサイ》はもっと怪し過ぎる。
この話がもし事実ならダチを殺したヤツに対してドクサイを使用するのに抵抗はない。
ダチも浮かばれるって話だ。
俺はドクサイを手に取った。
画面には登録名簿みたいなものがズラッと並んでいる。ついでにお隣さんの名前もある。
これが説明書にあった消すことの出来るリストか。
つまりこーゆうことか。
ある一定の距離に近づかないとこのリストに名前を受信出来ない。逆に遠すぎるとリストに名前は載らない。
なるほど。
小型で持ち運びにもいける。それに見た目はガラケーみたいだから怪しまれる心配はない。
だけど問題はヤツらをこのドクサイで本当に消すことが出来るか、だ。
何か手頃に試す方法はないか。
とりあえず出かけてみようか。
ドクサイをジャンパーポケットに入れて底冷えする12月の繁華街を歩いた。
{ねえねえ、独り?遊ばない?}
{あのクソ親父!金返せや!}
{なあなあ、金貸せよ。なあ~みつる君。じゃなきゃ、俺とタイマンな!}
どいつもこいつも消した方がいいな。
腐ってる。
時計の針を見た。12時を過ぎている。
手頃なマックにでも行くかな。
自動ドアを通るとマックの店内に入った。二つのカウンターの一つで注文を取ると隣から怒鳴り声が聞こえた。
「だからぁ!ハンバーガーにようじが入っていたんだよ!!!つまようじがよ!」
カウンターの女の子は困っていた。責任者の男性も、チンピラまがいなこの客に悪戦苦闘している。
ふ、とドクサイがポケットに入っていることを思い出して、ポケットから出した。
色々な名前があり、この騒がしいチンピラの名前がわからない。これではドクサイを試すことなど出来ない。その時、チンピラ男はドスをきかせた声音で言った。
「この大友様にケガ負わせる気か!?
アアァッ!!!」
俺は素早くリストの大友安弘を見つけ出し、消去ボタンを押した。
確かただ消すだけなら急性心不全だ。
相手のチンピラを見ていると身体をビクッとさせ、倒れた。しばらくその身体は痙攣して口から泡を吹いていた。
周りがざわめく中で確信した。
決まりだ…………本物だ。
俺は面倒に巻き込まれないうちに去った。
走って帰路へ向かう。
異様な高揚感があった。それと同時にどす黒く粘っこいものが心を支配していた。
いつも思っていたことじゃないか。理不尽な世の中だと。
いつも感じていたことじゃないか。
消さなければいけないヤツがいると。
やってやる。
このドクサイでダチを殺した五人に裁きを下してやる。
╋ドクサイには名前検索機能がついている。たとえ同性同名であっても顔が頭に入っていればGPS機能により特定の人物の居場所を探すことが出来る。
12月24日。
記念すべき日に俺はダチを殺した五人をこの世界から抹消した。
最初からいなかった存在としてヤツらは召された。
俺は心に決めた。
ドクサイを使い、この世界の支配者になることを誓ったんだ。
その時よりドクサイを取り巻くゲームが始まっていた。
そして俺もそのゲームに知らず知らず参加していたんだ。