エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
不快な思いはもちろんある。でも、簡単に怒っちゃダメだよって、指輪の向こうの先生に言われているみたい。

きっと先生なら、些細な嫌がらせなんて取り合わないだろうし……。

「ふうん。余裕ね。さすが、エリート外科医が恋人だと、貫禄も出るんだ?」

やっぱり、それか……。先生との交際を話したのは、自慢をしたかったからじゃない。

事故の件では迷惑をかけたし、復帰後も心配してくれている人がたくさんいた。

だから、隠したくなかったし、これからも頑張るという決意表明のような気持ちで報告したのに。

私の行動は、軽々しかったのかと思うくらいに、やっかみも聞こえていた。

「そういうのじゃないです。本当に大丈夫なので……」

少し濡れた袖口は、忘れた頃には乾いているだろう。その程度だからと、気にせずメイク直しを続けると、上田さんは化粧室を出る間際、私に丸めたティッシュを投げつけた。

「目障りなのよ。さっさと辞めれば?」

彼女のヒール音が遠くになったとき、綾子が入ってきた。

「久美、気にしちゃダメよ」
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