エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
平日でも、ホテルは賑わっていて、外国人観光客の姿もある。レストランも充実しているからか、接待らしきビジネスマンも数組見かけた。

ロビーの中央にある噴水の近くにいた先輩は、私を見つけるとゆっくりこちらにきた。

「久美ちゃん、突然ごめん。今夜くらいしか、しばらく時間が取れる夜がなくてさ」

私服姿の先輩は、スーツ姿だ。

「いえ……。先輩、日中は勤務だったんですか? スーツ姿って、珍しい感じがします……」

「実は今日、学会があったんだ。兄貴も一緒だったよ」

そう言った先輩の視線は、私の左手に向いている。指輪を見られているのだと分かって、思わず手を後ろに隠すようにしてさはまった。

「そうだったんですね。そんなお忙しいのに、私にお話ってなにかあったんですか?」

緊張する……。先輩と会うのに、こんな居心地の悪さを感じるのは初めてかもしれない。

「食事でもしながら、ゆっくりと話すよ。ここの最上階にね、鉄板焼の店があるんだ。行こう」

「えっ⁉︎」

ここの最上階ってたしか、有名シェフの鉄板焼の店があるのよね?

国内の最高級肉を使ったステーキがあって、芸能人も多く通うという……。

「どうしたんだよ、久美ちゃん。行こう」

エレベーターに向かって歩き出した先輩は、立ち尽くす私に振り返り、怪訝な顔を向けた。
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