エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
「すみません、先輩。私には高級過ぎて……。普通のお店ではダメですか?」

「それは、値段が高いからってこと? 今夜は俺がご馳走するし、お勧めの店だから久美ちゃんを誘ってるんだ。遠慮しなくていいよ」

笑みを浮かべた先輩は、私の側に戻ってきて手を取った。先生の温かい手とは違い、隆斗先輩の手は冷たい。

「ですが……」

「遠慮するなんて、水くさいじゃないか。学生の頃からの知り合いなんだし、気さくに接してほしい」

そう言われてしまい、それ以上強く反論することができなかった。たしかに、高校生の頃は、慕っていた先輩だったけれど……。

半ば強引に引っ張られ、エレベーターに乗る。数人、同じエレベーターに乗る人がいて、私と先輩は黙っていた。

その間に、さりげなく先輩の手をほどく。先輩も、それ以上触れることもなく、真っ直ぐ前を見据えていた。

ほどなくしてエレベーターは最上階に着き、店へ向かう。予約制の文字が見えて、先輩に声をかけていた。

「予約が必要みたいですよ?」

「大丈夫、予約してあるから」

涼しげな顔で言った先輩は、私の背を軽く押して店へ促した。

私と約束をしていたわけでもないのに、予約をしていたということ?

どうしてそこまで……?
< 146 / 248 >

この作品をシェア

pagetop