エリート外科医と過保護な蜜月ライフ

それを言われて、“恵さん”が頭に浮かぶ。彼女のことをなにも確認しないまま、曖昧にしていた。

もしかして、先輩は恵さんのことを知っている……？ そのことを話そうとしてくれているの？

緊張でいっぱいになっている私に、先輩はすっとメニュー表を渡した。

「食べようよ。ここの肉、美味しいんだ」

「先輩……。お話を聞かせてくれませんか？」

美味しくても、なにか食べる気にはなれない。あえて今夜、私をこのお店に誘ったのは、先生と鉢合わせさせるためだったから？

そんな疑念を持ったら、今先輩と過ごす時間がとても心地悪い。

静かに言った私に、先輩はふっと笑った。

「意外と、せっかちなんだな。昔は、もっとゆっくりした性格の印象だったのに」

「……それを言われるなら、先輩だって。変わられたと思います」

どこか挑発的な先輩の口ぶりは、高校生のときにはなかったけれど……。構える私とは違い、先輩はとても落ち着いている。

「お互い、大人になったってことだよ。兄貴は、久美ちゃんのことを周りに話しているみたいだな。なにを考えているんだろう」