エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
金田さんがそう言い、私は首を横に振った。

「そんなことは、ありません。私、皆さんのお役に立ちたいと、ずっと思っていますので」

実は事故で入院したこと、そのとき先生方にお世話になったから、恩返しの意味も込めて病院で商品を営業していることを説明した。

「そういうご事情があったんですか……」

「はい。でも、すみません。空気を重苦しくしてしまいました」

初対面だというのに、事故の話をしてしまい、重苦しい空気にしてしまった。話を変えようと考えていると、金田さんは伏し目がちに黙ってしまった。

「金田さん、試供品を試されませんか? こちらは、栄養バランスが抜群で、他の病院や福祉施設でもご利用いただいているんです」

自分の話をしたことに後悔しながらも、笑みを浮かべてパックジュースを差し出した。

すると、金田さんはニコリと笑顔を戻して受け取る。

「ありがとうございます。では、いただきます」

彼女は、さっそくジュースを口にすると、表情を明るくした。

「おいしくて、飲みやすいですね。とても天然な味で……」

「そうなんです。不要なものは、入っていませんから。数に限りがあり申し訳ないのですが、試供品を皆さまでお召し上がりください」

よかった、反応はいいみたい。安心しながら、試供品のパックの詰め合わせを差し出す。

金田さんは、さらに嬉しそうな顔をして受け取った。

「ありがとうございます。必ず、スタッフに渡します」
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