エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
「そうか? そんなことは、ないと思うけどな」

「いいんです。それより、食器を見ましょうよ」

さすがの先生でも、チケットを取ろうとはしないだろうけれど、気を遣わせたくなくて話を変えた。

私は、どこかへ行きたいとか、なにが欲しいというのはなく、ただ先生の側にいたい。

それが叶うだけで充分だから。

「あ、これ素敵なカップ……」

目に飛び込んできたのは、白い陶器のカップ。赤い実とつる草が描かれていて、品のある感じだった。

すると、お店の年配の女性がニコリとした。

「これは、イギリス製のものなんですよ。老舗ブランドのもので、かつては貴族の間で使われていたものです」

「そうなんですか⁉︎」

そんな高価そうなものが、市場に売られているの? 驚いている私に、先生が優しくカップをひっくり返した。

「ほら、久美。底にブランド名が焼かれている」

「え?」

確認すると、たしかに食器類の有名ブランド名が書かれてある。

「本当ですね。こんな高価な物も、売られているんですか?」

素朴な疑問をぶつけると、女性はニコニコしながら答えてくれた。

「うちは、輸入雑貨の店なんです。市場は、外国人のお客様も多いし、今回は客船が来ていることもあり、高価な物も置いてるんですよ」
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