エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
大事なものを離しません
「久美も、明日は予定があるんだな。ちょっとホッとしたよ」

土曜日の夜、帰宅した先生がそう言った。恵さんと会うとは言えなかったけれど、出かけるとだけ伝えている。

先生は自分も休みなのに、私と時間を過ごせないことを申し訳なく思ったみたい。

私は作った晩ご飯をダイニングテーブルに並べながら、彼に小さく微笑んだ。

「明日のことは、気にしないでくださいね。先生は、お友達と会うんですか?」

すると、彼はダイニングチェアに座りながら、首を小さく横に振った。

「いや。父に呼び出されてね。父と会う予定なんだ」

「院長先生にですか?」

まさか、恵さんのこと? それとも、全く違うこと……? 驚く私の手を、先生は優しく握る。

「そんな、不安な顔をしなくて大丈夫だ。きみが心配することは、なにもない」

「先生……」

彼の優しさが、今はとても切なく感じる。明日、恵さんと会ったあと、先生にお別れを切り出そうと思っていたから。

ずるい考えかもしれないけれど、彼女が仕事の話を進めると約束してくれるまでは、先生に気持ちを伝えないと決めていた。
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