エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
「だからって……」

「将来も約束されて、病院経営も意のまま。恋人くらいは、我慢してみればいいのにさ」

先輩は鼻で笑うように言い、先生を一度だけ見ると、ドアを開けた。

「じゃあ、俺は帰るから。どうせ、収まるところに収まるんだろ? またな、久美ちゃん」

ひらひらと手を振った先輩は、部屋を出ていく、と同時に先生のため息が聞こえた。

そして、先生は一度指輪の入った小箱をテーブルに置くと、矢吹院長夫妻の前へ立った。

「大切なお嬢様の結婚相手として、僕を選んでいただけたのは非常に光栄だと思っております」

ゆっくりと静かにそう話す先生を、堂浦院長夫妻も立ち上がって見守っている。

そして恵さんは少し青ざめた顔で、呆然と立っていた。

「ですが、僕には愛する女性がいますので、ご期待に添えることはできません。申し訳ございません」

深々と頭を下げる先生の肩を、矢吹院長は優しく叩いた。

「ずっと拒まれていたから、覚悟はしていたよ。それに、堂々と彼女との仲を見せつけられては、諦めざるしかない」
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