エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
そんな風に先生に言われると、気恥ずかしくなってくる。だけど、こうやって前向きになれたのは、先生のお陰。

その気持ちは伝えなくちゃ……。

「先生に出会えたから、あの事故も前向きに捉えることができたんです。教えてくださって、ありがとうございました」

控えめに笑みを見せると、先生も目を細めて笑顔を浮かべてくれる。先生の笑顔は、私の心を乱していって、ドキドキと緊張してきた。

「いや。気づいたのは、小松さん自身だから。俺はただ、自分の思いを伝えただけだ」

「先生……」

今なら、先生の優しさがよく分かる。その思いに気づけただけでも、良かったんだ……。

「そういえば、先生にお渡ししたい物が……」

営業鞄から、新製品のパックジュースを二本取り出す。一つは野菜ジュースで、もう一つはフルーツのものだ。

「それは? タチバナ食品さんの新製品とか?」

「さすが、先生は鋭いですね。そうなんです。本来なら、外科病棟の皆さま分お渡ししたいところなんですが……」

試供品として持ってきただけだから、数が足りない。堂浦先生にも、忙しいだろうから会うつもりはなかった。

だけど、こうやって偶然会えたのだから、先生に渡したくなる。ジュースを手渡すと、それを大事に受け取ってくれた。
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