エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
その日は他にも、新規営業先をまわった。総合病院や、病院が近くにある小さな商店など。

ソンシリティ病院をヒントに、健康志向の商品を置いてもらうためだった。

だけど、話を聞いてもらえなくて、まったく成果は上がらなかった。

「課長、すみません。今日は、ソンシリティ病院の納品だけでした……」

会社に戻り、課長に申し訳ない気持ちで報告をする。と同時に、焦りも感じてしまった。

事故前は、既存顧客のフォローも多く、受注の数字を上げていた。だけど、今は新規で取引先を見つけるしかなく、数字はかなり厳しかった。

「謝ることじゃないよ。小松さんは、復帰して早々に、ソンシリティ病院での受注を受けてくれたじゃないか」

デスクに座っている課長は、小さく微笑んだ。だけど私は、ますます肩身の狭い思いがした。

「ですが、ソンシリティ病院は、お世話になった場所なので……」

入院患者だったから、高野さんを説得できたのかもしれないし……。そう考えたら、まだ胸を張れるものじゃなかった。

「小松さんは頑張っているよ、大丈夫。自信を持って」

「はい……」

課長に優しくそう言われ、私は笑みを見せた。自信は弱いけれど、課長が励ましてくれるのだから、頑張りたい。

それが、堂浦先生への恩返しにもなるのだから……。

退社時刻になり、オフィスビルを出る。今夜は風が爽やかで、気持ちいい。

夜空を見上げても、星が見えるはずもなく、代わりにビルのネオンが光っている。

「先生、どうしてるかな……」

当直や急患対応がなければ、もしかしたらもう帰っているかもしれない。

連絡をしてみようか迷っていたとき、着信音が鳴った。
< 38 / 248 >

この作品をシェア

pagetop