エリート外科医と過保護な蜜月ライフ

「小松さん、なんでリハビリをしないんだ？」

入院から一週間経った頃、病室に険しい顔をした堂浦先生がやってきた。ベッドで読んでいた文庫本を、半ば乱暴に取り上げられる。

その先生を、私は睨むように見た。生意気だと分かっているけれど、無理やり本を奪う必要はないと思ったからだ。

「早く治っても、意味がないからです」

「意味がない？」

「はい。だって私、戻る場所がないから……」

「どういう意味だ？」

怪訝な顔を向ける先生に、私は課長に言われたことを話す。同情をしてほしいわけではないけれど、少しでも分かってほしかった。

だけど、先生は私の話を聞き終えて、大きくため息をついた。まるで、これみよがしといった感じに……。

「考え方が甘いんだな」

「え？」

まるで想像もしていない返しに、絶句してしまう。甘いって、どういう意味？

呆然とする私に、先生は冷ややかな目を向けた。

「きみは、組織に属しているんだ。自分が抜けた穴を、周りが埋めてくれている。そういう感謝の気持ちは持てないのか？」