エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
そう言われ、反論する余地がない。感謝の気持ちなんて、まるで持っていなかったから。

「悔しいなら、復帰しても必要とされるくらいに、自分を磨けばいいだろ?」

先生の言うことが正論すぎて、涙が浮かんでくる。でも、入院中なのに、自分磨きだなんて、どうすればいいというんだろう。

「先生には、分からないんですよ……。エリートで、見た目もよくて、家柄も。なにもかも持ってる先生には、私の気持ちが分からないんです」

八つ当たりをしているーー。それは自覚しているけれど、先生の突き放すような言葉を、素直に聞くことができなかった。

そして、ほとんど衝動的に手を差し出していた。

「なに?」

怪訝な顔をする先生を、私は思いきり睨む。

「本を返してください。読書は、自分磨きの一つですから」

先生の言葉を受けて、最後の抵抗をすると、あっさりと本を返してくれた。

「リハビリも、自分磨きだ」

そう言い残した先生は、さっさと部屋を出ていった。
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