エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
小さな茶色の紙袋を先生に見せると、彼はさらに微笑んでくれた。

「ありがとう。楽しみだよ。小松さんは、お菓子作りが得意なんだな」

お互い車に乗り、シートベルトを締める。相変わらず、品のある香りがする車……。

「好きなんです。お菓子を食べすぎちゃうので、最近は作ってなかったんですけどね」

褒められたのが照れくさくて、はにかみながら答えると、先生は笑みを向けてくれた。

先生って、本当に穏やかな笑みを見せてくれる人。それだけで、心が温かくなるな……。

「小松さんって、海は好き?」

車を走らせ始めた先生が、ふとそう聞いてきた。私は、その質問の意図が分からないまま素直に答える。

「はい。好きです。キラキラした水面を見るのは特に……」

「じゃあ、行こう」

先生は静かに言って、海岸沿いの道を走り始めた。右側に海が見えてきて、水面が太陽の光に反射して、眩しいほどに輝いている。

海水浴の季節ではないけれど、砂浜を歩くカップルやファミリーがちらほらいた。

「この先で停まろうか。カフェの店があるんだ」

「そうなんですね……。 先生って、お店をよくご存じなんですよね」

海岸沿いのカフェだなんて、オシャレでデートスポットな印象がある。まさか、一人で行くわけじゃないだろうし、恋人と来たことがあるのかな……。

そう思うと、急に胸が締めつけられる思いがする。先生くらい素敵な人なんだから、恋人がいたことは不思議じゃない。

それを分かっているのに……。
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